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約束 ~禁断の恋人~
第1章 日常
「点滴の針を、多めに持って来て。後、心電図用の、予備のバッテリーも……。後は……」
他に何が必要なのか、すぐには思いつかない。それくらい、平常心じゃなかった。
ベッドに横たわるだけの海。その姿に、動揺している。
僕はDr.なのに……。
「大丈夫だ。全て、準備するから……」
父親の言葉を聞いてから、足早に部屋を出た。
◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆
マンションへ戻り、プライベートルームへ急ぐ。
そこは自室とは違い、十年くらい前から流行り出した趣味の部屋。家の一室を改装して、個人や家族で余暇を楽しむために利用する。
広さによっても違うが、ミニコンサートが出来る設備を入れたり、マシントレーニングのジムにしたり。庭の無いマンションでは、ガーデニングをしている人も多いらしい。
越してきた時に海と相談したが、彼の趣味は料理とバイク。自室とキッチンがあればいいと言われ、僕の研究室として使っている。
広いプライベートルームは、病室のような造り。色々な医療機器があり、手術室に近いかもしれない。簡単な手術なら、適した備品があればすぐに行える。
そのベッドの周りを片付け、海の到着を待った。
◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆
プライベートルームの椅子に座り、海を見つめる。
生命維持装置と共に海が戻ってくるまで、丸一日以上を費やした。
父親と脳外科医長。ナース長の手伝いで、海は内密に僕達の場所へ戻って来られた。
規則正しい呼吸。
上下する胸。
海は眠っているだけ。僕にはそうとしか見えない。
朝になれば目を覚まして、いつも通りの一日が始まる気がする。
くしゃくしゃと髪を撫でられ、海の作った朝食を食べて、キスを交わしてからお互いの仕事場へ向かう。
そんな平凡な日常さえ、もう戻って来ないなんて……。
装置無しでは生きられない海。
笑いかけても、抱きしめてもくれない。それでも、彼を手放すなんて考えられなかった。