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約束 ~禁断の恋人~
第7章 想い
ナースの声がして、僕は人差し指を口に当ててフィーアに見せた。
「トイレです!」
「具合でも悪いんですか?」
ナースが近付くが、トイレだけに急に開けようとはしない。
僕が医院長の息子だとも知っているはず。
「大丈夫です。便秘気味なだけで……」
「何かあったら、すぐにナースコールを押してくださいね」
トイレにも、緊急用のナースコールがある。
「はい。分かりました」
何でもないように言うと、ナースが出て行く音。
ほっとしてから、フィーアを見つめた。
「Dr.トモ。腹、痛い?」
「大丈夫」
僕が笑顔になると、フィーアも安心したように見える。
「どうして、来たの?」
「オレの、仕事。Dr.トモの、傍にいることだから」
僕が言った言葉。
思わず彼を抱き締めた。フィーアも、背中に腕を回してくれる。
こんな健気な彼を、僕は殺そうとした。一緒に死のうとした。
「病室でも、学習してるよ。テレビで」
「そう……」
レポートのためじゃなくても構わない。テレビを観るだけでも、フィーアは色々なことを吸収するだろう。
少しずつでも、成長出来る。
それよりも、彼がまだ病院にいたのが嬉しい。整形もされず、研究所にも連れて行かれていなかった。
「ありがとう。フィーア。でも今の君の仕事は、病室にいることだよ」
「ここも、病室……」
「自分の病室に、戻らないと。そうすれば、いつかまた、ちゃんと会えるから……」
言い聞かせたのは、自分へかもしれない。
もしも整形されて顔が変わっても、彼は彼のまま。僕も、海の容姿だけを愛したわけじゃない。
研究所に移されたとしても、また会えるはず。そのために、今は大人しくしていた方がいい。
「だから、自分の病室へ戻って? もう、来ちゃ駄目だよ?」
「ん。Dr.トモ」
トイレから出て、病室のドアを開けた。
「誰かに見つかったら、迷子になったって言うんだよ?」
「分かった。おやすみ。Dr.トモ」
「おやすみ……」