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約束 ~禁断の恋人~
第7章 想い
そんなことは、今までの“Z”には有り得なかった。
フィーアは“Z”で、僕が勝手に作り上げた命。そんな彼と長い間二人切りだったせいで、小さな変化に気付いてあげられなかった。
「慌てなくていいから。ゆっくりでいいから、もっと話してごらん?」
子供をあやすような口調で言うと、Dr.小早川は僕をちらりと見てからフィーアに視線を戻す。
「違う……」
また、いつもの「違う……」。
聞き飽きた僕は、溜息をついた。
「オレはフィーアになった。カイだったのに……」
「それで?」
Dr.小早川は、冷静にゆっくりとフィーアに質問を続ける。
「カイは、Dr.トモの恋人で、フィーアは、ただの研究材料だから……」
溜息をつくフィーアを見て、Dr.小早川と顔を見合わせた。
「だから、違う……」
フィーアの「違う……」には、ちゃんとした意味があったのか。
僕が、きちんと聞いてあげられなかったせい。そのせいで僕は勝手に苦しみ、一緒に命まで絶とうとした。
Dr.としてなら、何が起こっても冷静でいられる。でもフィーアと過ごすのは、普通の日常。
「違う……」を繰り返すフィーアの話を、もっときちんと聞いてあげれば良かったのに。
「オレ、Dr.トモと、何か、約束、した……。凄く、大切な、こと……」
「フィーア?」
見つめたが、彼は言葉を探すように瞳を動かしている。
海との約束の内容は、誰にも話していない。それにその約束を海が口にしたのは、一年以上も前だ。
「桐島。フィーアの脳は、何%残した?」
「え……。90……。いえ、チップを埋め込むだけの最小限度だから、95%くらいだと思います」
通常の移植手術で残す脳は、60%程度。チップを包む軟性シリコンが多いほど、細かい神経を繋ぎ合わせる作業は楽になる。
今までのアインス、ツバイ、ドライもそうやって移植手術をしてきた。
実例の無かったアインスへの移植がそれで成功したせい。