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約束 ~禁断の恋人~
第8章 未来
今海といられるのは、Dr.小早川の計らいでもある。
「桐島、今晩食事に行かないか?」
Dr.小早川の明るい声に、僕も笑顔で答える。
「すみません。恋人の手料理を、マンションで食べる約束なんです」
周りの人に冷やかされたが、それも心地好いと思えた。
「そうか。今日から復帰したんだよな」
Dr.小早川だけにはメールをしておいたから、全てを知っている。
「はい。少しずつですが……」
僕がチームのみんなに、海との関係をカミングアウトする日も近いかもしれない。今までも隠していたわけじゃなく、言うきっかけがなかっただけ。
「約束は、守られそうだな」
「はい」
しっかりと答えた。
海は新しい命に生まれ変わってまで、僕との約束を守ろうとしている。
『幸せにする』と言ったのを、ちゃんと思い出してくれた。
今はそれだけでいい。
「暫くは邪魔しないけど、そのうち恋人も一緒に食事に行こうな」
「楽しみにしてます」
Dr.小早川の笑顔と、周りの暖かい冷やかしに見送られながら、僕は恋人の、海のいる調理部へと向かった。
調理部の四階へ行った途端、冷やかしを受ける。
「海くん、恋人が迎えに来たわよ」
「海っ。再会のキスはぁ?」
佐倉と美咲が嬉しそうに言う。
「トモ……」
調理後の片付けと昼食も終えたのか、丸椅子を出してみんなで雑談していたようだ。
海に復帰して欲しいと願ってはいたが、そんなことまで考えていなかった。
調理部の仕事は、忙しい時間が限られている。初めて来た時も、こうして雑談していた。
雑談の時間に、海が何を話すか分からない。
それも、ここを出る時にキスされた後。
久し振りだし、質問責めだったかもしれない。
海が何を話したか不安だ。
「海は、大丈夫でしたか?」
「何も変わりないですよ、以前と。思い出してきたのか、話し方も戻ってきましたよ」
佐倉がしみじみと言う。
話し方。
それは、人間の特徴の一つだろう。
記憶のある現場に馴染み、少しずつ変わっていくかもしれない。