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わがままな氷上の貴公子
第10章 意地
◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆
「おはよう……」
ダイニングへ行くと、潤は朝からステーキを食べている。
母親が持って来た残りを、和子さんが焼いたんだろう。
「悠ちゃん、おはよう!」
「おはようございます。悠斗さん。疲れは取れましたか?」
「ん。まあまあ、かな」
セックスしなくても、昨日の大会での疲れは抜けきっていない。
今日の午前中は、テレビ出演や雑誌の取材。午後からは、エキシビション。明日からも、テレビ出演やCM撮影がある。
注目されるのはいい気分だが、練習以外のスケジュールが多いのは厳しい。
エキシビションに、大技を多く入れる必要はない。4回転を跳ぶのは単独で二回だけ。出来るだけ客席の近くを滑る、ファンサービスだ。
ファイナルへの出場が決まった時から、内容は用意してある。
テーブルへ着き、和子さんが出してくれたものを食べ始めた。
「悠ちゃん。今日も色々テレビに出るの?」
「ああ」
「和子さん。全部録画しといてね。講義の合間なら、スマホで観るけど」
家にいる時とは違う、“美少年フィギュアスケーター”を拝みやがれ。
「全部録画予約済みですよ」
和子さんはいつもそう。観に来た大会でも、全て録画しておいてくれる。オレが、それを観ることはないが。
思い出し、和子さんに食事をリビングへ運んでもらった。
観るのは、昨日の自分の滑りのVTR。
「俺も悠ちゃん観たい!」
潤が、大量の食事とともに隣へ座った。
「悠ちゃん。綺麗……」
「静かにしろっ!」
別に、自分を鑑賞したいわけじゃない。ジャンプの順番を確認するため。
大きな減点になるほどのミスはないが、加点の取りこぼしは結構ある。この滑りを完璧に仕上げれば、最後の大会でも認められるだろう。
ジャンプの順番は大体分かったから、テレビを消した。
「暫く忙しいから、勝手に来て、勝手に食事して、二階で寝ろよ」
和子さんに聞こえないように、小声で言う。
「えー」
潤は不満そうだが、今はオレの人生が賭かっているといってもいい。
三歳から始めたスケート。
それが、やっと花を咲かせるかどうかだ。