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わがままな氷上の貴公子
第10章 意地
◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆
「プログラム内容が変わりましたが、あれは急な変更ですか?」
司会者に訊かれ、笑顔を見せる。
「はい。数日前から、調子が上がって来てて。二種類用意したんですけど、直前に、難度の高い方に決めました」
オレのこの笑顔で、多くのファンが感激の悲鳴を上げるだろう。
今日の主役は、金メダルのオレ。本堂は二番手だ。九十九はいない。
気分は良かったが、本番が終わると疲れる。
控室で休む間もなく、次のテレビ局へ。
移動の車の中でゼリー飲料を口にしながら、今朝観たジャンプの順番をメモしていく。合間のエレメンツも書き、頭の中で滑っていた。
いくつかのテレビ出演や取材が終わり、やっとリンクへ。
やはり、氷の上が一番いい。
昨日の表彰式では、一番高い場所。
エキシビションでは、客席ギリギリを何度も滑った。大会とは違うから、その度に黄色い歓声が上がる。
「望月。最近益々、表情が艶っぽくなったな」
バックステージで鈴鹿に言われて、内心ドキリとした。
まさか……。
それも潤のせいか?
楽なエキシビションだから、つい潤のことを考えてしまった。別にセックスじゃなくて、オレが忙しくて淋しがるかと思っただけ。
あいつは、和子さんの食事を食べに来るだろう。後一つ取材を終えたら、オレは家に帰る。
帰りのタクシーの中、ついウトウトしてしまった。
運転手には住所を告げてあったから、車が止まって目が覚める。
ロックを開けて玄関へ入ると、ドタドタと潤の出迎え。
オレも、このペースに慣れてしまった。
「悠ちゃん、お帰り。録画、全部観たよお」
「ん……。ただいま……」
「お帰りなさい。悠斗さん」
和子さんに促されて、着替えの後は食事。
テーブルに載った殆どを、潤が食べるが。
潤の出入りと大喰いは、母親も公認になってしまった。
息子も喰われてるけどな……。
食後の紅茶を出すと、いつものように和子さんは帰って行く。潤が来るようになってから、その時間が少しだけ早くなった気がする。
「悠ちゃんも観る? 悠ちゃんが出た番組」
「いいよ」
確かめるのは、滑りだけでいい。