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わがままな氷上の貴公子
第10章  意地


 悔しい……。
 自分でもよく分からないが、そう思ってしまう。
 オレを振り回したり、安心させたり。
 こいつの存在が、分からなくなりそうだった。
「もう、好きに、しろよ……」
 諦めの心境。
 抵抗しようとしたって、どうせこいつには敵わない。
「悠ちゃん……。怒って、る?」
 潤はオレから離れ、正座をして見つめている。
 もう、怒鳴る気も失せた。
 潤が振り回したわけじゃなくて、オレが勝手に振り回されていただけ。
 潤が安心させようとしたわけじゃなくて、オレが勝手に安心しただけ。
 自分の気持ちは、とっくに分かってるはずのに……。
 こんなことが初めてで、どうしたらいいか分からなかった。
 今まで付き合ったヤツは、何となくの雰囲気で性癖が分かり、相手が告白してきた。「オレと付き合わない?」そんな軽い言葉でも、一応申し込んできたのに。
「お前は。オレを、どう思ってるんだよ……」
 言ってから、自由になった体を起こした。
 また、緊張してる……。
 あの時みたいだ。
 潤が入院したと聞いて、会いに向かった時。
 結局は誤解だったが、手が震えるくらい緊張していた。
「どうって? 好きだよ?」
 それは何度も聞いたよっ!
「だから……。他に何か、言うこと、ないのかよ……」
「え? ああ。悠ちゃんも、俺が好きでしょ?」
 ドキリとした。
 そうだ。こいつは、馬鹿で鈍感なんだ……。
 そのクセ、オレの気持ちだけは分かってやがって……。
 今度は、別の意味で悔しい。
「もしかして……。プロポーズ、しなきゃダメ? でも、男同士だから、結婚出来ないし……」
 やっぱ馬鹿だ。こいつ……。
 笑ってしまった。
 声を上げて笑うなんて、どれくらい振りだろう。
「悠ちゃん?」
 お互いに好きなら、特別な言葉なんていらないんだ。
 オレだって、それでいいと思ってたじゃないか……。
「悠ちゃん……」
 羽交い絞め……抱きしめられて目を閉じた。
 まだスケートも大切だが、大切なものはいくつあったっていいんだ。
 長くリンクの上にいるせいで、オレは心まで凍っていたのかもしれない。
「悠ちゃん。愛してるよ……」


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