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わがままな氷上の貴公子
第11章 決意
無理だと考えたが、何とか持ちこたえる。
着地でエッジが引っかかり、不安定な着氷。
転倒よりはマシだが、減点にはなるだろう。
それでも、繋げるしかなかった。
何とか3トウループを付けたが、この着氷も美しいとは言えないもの。
それでも、回転不足じゃなかったはずだ。
ジャンプの一秒ほどの間に、色々なことを考えるもの。
見ると鈴鹿は、真剣な表情で何度か頷いていた。
その意味は分からない。
でも今は、やれるだけのことをやるしかなかった。
以前のオレなら、ここで諦めていたかもしれない。
でも今は違う。
潤を北京へ連れて行く。
連れてってやると言った……。
後少し。後もう少しで手が届く……。
そのまま少し早めにドーナツスピンに入り、円錐(えんすい)を描くようにレイバックスピンへ。
女子では普通だが、股関節の造りが違う男子では珍しい技。
音楽いっぱいまで回転を続け、脚を降ろしたところでフィニィッシュのポーズ。
全身で息をしながら、片膝を着いた。
フィギュアでは、時間が来るかポーズを決めれば演技は終わり。その後なら、膝を着いても関係ない。
やまない拍手と歓声。「悠ちゃん!!」という声も聞こえる。
今日は本当に、あいつに運んで欲しい……。
何なら、抱え上げベッド落しででもいいぞ……。
今ヤる気は無いけどな。
笑い出しそうになるのを堪えた。
疲れていたが、充実感はある。
投げ込まれる数え切れない花束を見ながら、四方向へお辞儀をした。
最後にもう一度、潤と和子さんと塔子のいる方へ向かってお辞儀。
顔を上げると、潤のニコニコ顔。
お前に支えられて、オレはここまで来たんだ。
馬鹿で鈍感なお前と、意地っ張りでわがままなオレ。
いつかは素直に言ってやるよ。
好きだ、って……。
花束やぬいぐるみをいくつか拾いながら、ゆっくりとリンクサイドへ行った。
鈴鹿と、一緒にいた振付師にハグで祝福される。
二人が何を言っているのか分からないほど、疲れていた。