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わがままな氷上の貴公子
第2章 プライド
「手、離せよ……」
「ちょっ、ちょっと待ってよ」
手を離そうとしても、しっかりと握られていてどうしようもない。
こんな所でお前と手を握り合って、どうすんだよ。
人目がないからまだいいけど……。
「基礎を教えてやろうか? ……じゃあ、バンザイ」
「えっ? バンザーイっ、うわあっ!」
やっぱり馬鹿だこいつ……。
言われた通り両手を上げた潤は、思い切りコケた。
「悠ちゃん……。助けてよお……」
ばあか。お前みたなでかいヤツ、オレに起こせるわけないだろ?
「自力で戻って来いよ」
起き上がろうとする潤を見ながらバックで戻り、リンクサイドへ上がった。
「悠ちゃーん……」
フェンスまで、10mくらいだろ?
太平洋の真ん中に置きざりにされたような、不安な顔するなよ。
それでも潤は何とか立ち上がり、新種の動物みたいな格好でフェンスに辿り着いて上がってくる。
「悠ちゃーん。酷いよお」
「お前さあ。アイスホッケー部なんだろ?」
「ん。俺、スケート滑れないって言ったのに、寮で同室の先輩が、大丈夫って言うから」
先輩、無茶だろ。それは……。
「でかいから、キーパーなら何とかなるって言われて」
お前のその思考能力の方も、何とかならないのか?
「変なヤツ」
「あ、それ。こっち来てからよく言われるよ」
そうだろう? オレだけじゃないよな、そう思うの。
「俺の実家、鹿児島なんだあ。川内市(かわうちし)って知ってる?」
「知らない」
特に訛りはないが、たまにイントネーションが違うのはそのせいか。
「いいとこだよお。家の前に綺麗な川があって……」
語るのは勝手だけど、オレ以外のヤツにしてくれ。オレは都会育ちだだから、田舎に興味はない。
「悠ちゃんちって、どこなの?」
「悠ちゃんて呼ぶなって、言ってるだろっ!」
「いいじゃーん」
オレに怒鳴れて、そんなに嬉しいか?
またニコニコしている潤を見ると拍子抜けして、さっきまでのイライラも少しはマシになっていた。
口にはしないが、感謝しておいてやるよ。
「疲れたから帰る」
「えっ」
淋しそうな表情になった潤に見つめられ、つい訊いてしまう。
「お前さ。本当に、オレが好きなの?」
潤が、笑顔で大きく頷いた。