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わがままな氷上の貴公子
第2章 プライド
「夕食、食べるんだろ?」
「うんっ!」
今まで一番嬉しそうな笑顔にムカついた。
オレと夕食、どっちが嬉しいんだ?
「丁度良かった」
和子さんも、嬉しそうに手を合わせる。
「海外からお客様がみえるって、奥様から連絡があって、すき焼きの用意をしたんですよ。でも、奥様があちらへ行くことになって」
“すき焼き”のところで潤の腹が鳴ったのは、空耳か?
オレの母親は、高級輸入服などを扱う会社を経営している。年の半分近くは海外へ行っていて、数ヶ月戻らないこともざら。
父親は、六年前からアメリカに単身赴任。10歳上の兄貴は結婚して独立しているから、実質、今この家に住んでいるのはオレだけ。
物心ついたばかりの頃は和子さんを母親だと思っていたから、未だに頭の上がらない人。
両親も全面的に和子さんを信頼して、全てを任せている。
オレは、自分の両親を嫌っているわけじゃない。
実年齢より若く見えて綺麗な母親は、特に自慢でもある。今の状況に、何の不満もない。
「いいお肉、たくさん用意してあるんですよ。すぐ支度しますね」
楽しそうに言ってから、和子さんは小走りにキッチンへ行く。
潤には一階の風呂を使わせ、オレは自分の部屋のものを使ってからダイニングのテーブルへ着いた。
「はい、どうぞ」
和子さんが皿へ取り分けてくれると、目を輝かせた潤は礼を言ってから食べ始める。
一時間後、鍋は空になっていた……。
何度も肉を追加したし、飯は何回お替りした?
はっきりしているのは、残った殻で潤が七つ玉子を使ったこと。
お前は蛇かっ!
オレは、いつもなら食べ切る温野菜のサラダを半分残した。
他のおかずは少し食べたが、すき焼きには手を付けていない。大量に砂糖を使うため、出来るだけカロリーや糖質は摂りたくない。
それに、潤が食べているのを見ていただけで満腹だ。
「悠斗さんも、もう少し食べなくちゃね」
和子さんは、笑いながら片付けている。
オレは食後の紅茶を味わいながら、溜息をついた。