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〜 夏の華 ショートストーリー集〜
第10章 聖なる夜の手紙
暁を家に連れ帰り、温かなココアを淹れる。
二階の住居の暖炉の前に座り込んだ暁は、まるで寄る辺のない少年のような心もとなさであった。

「…さあ、お飲みください。
すっかり冷えられてしまって…」
冷たく白い手を取り、ココアのマグカップを握らせる。
「…お店…準備しなきゃ…」
掠れる声で、暁はその大きなアーモンド型の瞳を見上げる。
哀しみの色濃い瞳はうっすらと濡れていた。
「今日のランチは臨時休業にしましょう。
…暁様は何もお気になさらないで下さい…」

暁は手を伸ばした。
「月城…隣に座って…。そばにいて…」
月城は頷き、腰を下ろす。
暁の肩を抱き、優しく撫で摩る。
艶やかな黒髪に労わりのキスを落とす。

「…見て…。
薫から…手紙が来たんだ…」
震える白い手が未だ珍しい海外からの手紙を差し出す。

「…拝見いたします」
手紙を受け取り、差出人を確認する。

…戦時中こちらから出す手紙は、検閲を逃れるために全て差出人なしの文字のない絵葉書…或いは、パリに住む風間忍を通して年に一度程度のやり取りに限られていた。
日本からの手紙はやはり風間を仲介して受け取っていたが、戦火が激しくなってからはそれも全くできなくなった。
日本に留学中の忍の息子、司の安否すら確認できない日々が続き、縣家の人々と司の無事が確認できたのは戦後しばらく経ってのことであった。

漸く手紙のやり取りができるようになったと喜んでいた矢先の便りだ。
…しかも薫からの手紙は二人がフランスに亡命して、初めてのことなのだ。
縣家の人々は、月城と暁の居場所が特高に知られるのを恐れ、個別に頼りを出すことは決してなかったのだ。

月城は、手紙に眼を走らせる。
紙の質は極めて粗悪であった。
…あの戦時中ですら豊かな質の良いものを普段使いにし、節約や節制とは無縁な暮らしをしていた縣家…。
その御曹司が…。
今はどんな暮らしを強いられているのか…。
月城は、胸が痛んだ。

…薫のやや神経質な癖のある文字は、生々しい事実と心情を綴っていた…。






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