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第8章 知らないこと

その後はなんとかミスをすることなく仕事を終えることができた。
いつもは残業で帰りが遅くなることが多いのに、今日に限って残業もなく定時で会社をでることになった。
外に出れば明るいと思っていた空は陰り、夏の終わりを肌で感じた。
どうして夏が終わると気分も下がり寂しい気分になるのかと、帰る足取りは重い。
季節の変わり目に感傷に浸っているからじゃないことは分かっている。
足取りが重いのは家に帰りづらいからに他ならない。
帰ればきっと雅也がいる。
そう思うと自然と足取りは重くなり憂鬱な気分になってくる。
こんな時にmaple-メイプルに寄ろうかと思っても昨日の今日でゲンさんに会い辛く帰るしかない。
マンションの前に到着して自分の部屋を見上げると、明かりが灯っていた。

「帰らなかったんだ」

部屋の灯りを見た瞬間、言いようのない感情が私を襲い泣きたくなる。
だけどその感情が自分自身分からない。
どうして泣きたくなるほど悲しくなったのか分からず困惑する。
それでも帰るしかなかった。