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光を求めて
第8章 知らないこと
「ねぇ、雅也は幸せ?」
雅也は私の方を見て少し考えてからゆっくりと言葉にする。
「どうだろうね、自分でもわからないよ」
そう言って静かに笑った。
幸せだと即答しないのが答えだと思う。
そう思うと何も言えなくて、出て行ってとは言えなかった。
憎んでいるはずで、嫌いなはずで、二度と顔も見たくないと思っていたはずなのに、私は雅也を放っておくことができなかった。
出て行ってと言わないと雅也も出て行かない。
弁護士で自由が効くのか、私が仕事で家をあけているうちに家事は全てこなし、帰れば夕食がテーブルの上に並べられていた。
そして金曜日になり、maple-メイプルに行くかまっすぐ帰るべきなのか考えながら会社を出ると、会社前のガードレールに座っている雅也がいた。
「おかえり。一週間ご苦労様」
私を見つけると、にこやかに近寄ってきて持っている荷物を何も言わずに持ってくれた。
「どうしたの?」
「近くで仕事してたから一緒に帰るのもいいかなと思ってね。定時で出て来てくれてよかったよ」
「私が残業だったらどうしてたのよ」
「う~ん、待ってたかな?」
その答えに驚いているとくすくすと笑う。
最近は驚く私を見ては楽しそうに笑うから、わざとやってるんじゃないかとさえ感じた。