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微睡みの中で
第3章 翻弄
「ねえ、聡くん。もう帰っちゃう?」


「え?…はい」


「……」


沙耶香がオレの事腕を掴んで引き寄せ、唇が触れる。

本当に触れただけ。


キス、って感じじゃなくて、なんかこう。


ただ引き止めるだけのキスのような。


「…もう、少し」


人が稀に通るアパートの前で、少し寂しそうに呟き、ギュッと抱きしめられる。


夏の夜風は涼しく冷たく、俺達の足元を通り抜けていく。


甘えるような態度の沙耶香に誘われ、再び部屋に入る。


今日2度目のこの匂い。
うぅ、やっぱり俺って流されがち…。


「聡くんといると楽しいの。今日だって泊まっていったらいいのにーなんて」


ソファにストンと腰掛け、穿いていた黒い薄手のタイツをするすると脱ぐ。
出かける前にタイツは暑くないのか聞いてみたが、沙耶香はタイツやストッキングが好きで、夏でも穿くことが多いらしい。

今日の昼につけていなかったのは、行き先が海だったからだそうだ。

白くスラリとした足が露になって、つい目が行ってしまった。


「ふぅ、お腹いっぱい…だいぶ膨れちゃったなぁ」


「俺も…」


「聡くんは結構細身よねぇ」


と俺のお腹を軽くぽん、と叩いた。


ボディタッチから、すこしいい感じの雰囲気になったその時、俺のポケットの中でブー、ブー、とバイブレーションが鳴った。


すこしの沈黙。


2人だけの空間に割り込んでくるように鳴ったバイブレーションは止まらなかった。

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