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魚の骨
第3章 誘惑
彼の持てるだけの刃物で切りつけられている私を、宙の上から眺めている自分がいた。あぁ、あの女の子は幸せそうだと思った。顔をしかめていっぱいの汗をかきながら、されるがままに身を預けてる。

宙に浮いてる私が犯されてる私に耳元で話しかける。
「今あなたの愛する人があなたを愛してくれてるよ」と教えてあげ、興奮を盛り上げる手助けをする。
犯されてる私は顔を紅潮させ、「もうダメ…もうダメ…」と彼の手を払いのけた。

邪魔そうに私の手を片手で掴み、唇で唇を塞ぎこんだ。
唇の隙間から喘ぎ声が聞こえる。
宙の私がまた耳元で教えてあげる。
「彼、すごく気持ち良さそうだよ。あなたの体でめちゃくちゃに興奮してるみたいだよ」

宙の上から見る映像は絶景だった。
どこにも行きたくない私たちはどこでも絶景を創れる。
一糸まとわぬ体だけで、透明な海で部屋中を覆い尽くせる。

彼に足を持ち上げられ1番気持ちのいい部分を攻められてる私は何か言いたげな顔をしていた。
「大好き」ってきっと言いたいんだろうな。
大好きを声が枯れるまで言いたそう。でも言えない。
恥ずかしいんだろうな。恥ずかしい格好をしてるのに、大好きが言えずに「あぁ…」とか「んっ…」とかで誤魔化しているように見えた。

宙の上からまた私が降りてきて「もう全部見られてるから恥ずかしくないよ。全部を見て可愛いって思ってくれてるよ」と励ましてあげた。


彼の大きな体で私の姿は見えなくなった。
「大好き」と耳元で囁かれてる。
もう私の出番は必要がなくなった。宙から眺めてる私は、犯されてる私の体に入り込むことにした。


「僕としても飽きない?」と何度も確認されたことを思い出す。「ねぇ、飽きない?」と何度もぐっしょりと濡れた場所を弄り回されながら聞かれ、途切れ途切れでしか答えられなかった。


私に飽きられることを恐れてる彼がどうしようもなく愛しかった。ずっと抱きしめて頭を撫でて名前を呼んで服を脱がし続けたかった。


飽きないよ。飽きない。私が飽きることがあるなら、海に投げ捨ててくれて構わない。あなたが私に飽きたら、新しい私でまた会いに行く。友達として、妹として、元カノとして、昔捨てたペットとして可愛がってくれたらそれでいいから。
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