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魚の骨
第5章 卍
お見合い、お見合い、お見合い。
私はお見合いなんてものをしたことはなかったし、彼がお見合いをする想像さえもしていなかった。


きっと綺麗な人が連れて来られるんだ。
年相応で彼に似合ってて、私とは真逆の堅い仕事をしてる人で料理上手で床上手で、しんでしまえばいいのに。

まだ彼が出向いてないお見合いを考えては、まだ現れてない人の不幸を願う私は彼にとってやっぱり荷物だ。


肩を落として歩いていると、美容院にたどり着いた。
いっそのこと髪の毛を全て無くしてみようか。
究極のかまってちゃんな子供になって、僕がいなければダメだと思ってくれないだろうか。

店に入ると一面がガラス張りで吹き抜けの天井にはプロペラがたくさん回っていた。背が高い顔立ちが整っている男が私を案内してくれる。
彼よりも大きい男は「どんな髪型にしますか」とマニュアル通りの口調で話しかけてきた。

「なんでもいいです」を3回答えた。

髪の色も長さも前髪も「なんでもいいです」
男は苦笑いしながら「こだわらないんですね」と適当な分析を私にした。

それさえもどうでもよかった。

髪は女の命ではない。私の命は彼だった。命がけで朝髪をセットしたこともないし、髪を切られるたび傷つく事もない。本物の刃物より彼の言葉は鋭いし、重かった。
鏡の前の私は生気がない顔をしていて青白かった。
実にしょうもない女の顔だった。

顔立ちの整っている男は私の髪を触りながら、服はどこで買ってるんだとか連休は何をして過ごしてるんだとか、五分後には忘れるであろう情報を収集している。

それに加えて手伝いで若い男がやってきて私の髪を触る。
若い男は何も喋らず不慣れな手つきで私の髪を染めていた。安っぽいシルバーアクセサリーが目につく。きっと千円かそこらのネックレスでオシャレだと思っているのだろう。

どうでもいい。

立っているだけで光ってる彼に会いたい。
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