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遅すぎる初恋
第9章 自覚
紫音の顔が目の前にあり、細められた瞳から反らせることができない。
運転席から身を乗り出し、俺の顔の横に紫音の手があって、ようやく押し倒されたことに気づく。

感情の読めない紫音と見つめ合ったのは数秒。そのまま俺に近づいた紫音が唇を塞ぐ。

この前よりも強引に舌を入れられ、その動きについていくのが必死。

息、苦しーーー。

そう感じたとき、離れた紫音が至近距離で見つめたまま、言う。

「あの店とオレの家、すごい近くて、和哉さんに連絡もらったときすぐに家を出たんだ。店の中に入ったら、和哉さんが男と二人でいて、電話での様子から和哉さんに何かしたのかもって不安になった」

「……あの人は髪切ってくれた美容師さんで、お、俺のことを……好き、だって……」

恋人じゃない。ただ、セックスした相手。
男友達に告白されたことを話すようなもの。
そう思いたいのに思えない。

胸が苦しくて、痛い。
紫音の淋しそうなのと怒っているような目が怖い。

「で? 和哉さんは返事したの?」

「ハッキリ言ってないけど……でも、平気だと思う」

「何でそう思うの」

紫音の顔は怒ってる? 悲しみ?

「何でって……お前がつけた跡見られて、意味教えられて……電話の相手が誰だか知られて、」
「ねえ、どうして美容師がそのことに気づいたの?」

怒ってる。鈍感な俺でもすぐにわかる。
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