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お良の性春
第1章    好色歌留多 裸地獄
 (大丈夫)

 お良はもう一度心の中でつぶやいた。そして、じっとカルタを見る。
 広間が静まり返ると、源一郎が札を読む。

「 むらさめの つゆもまだひぬ まきのはに」

 馴染みの歌が耳に響いた。そのとき、清三郎の手がサッとカルタを押さえたのだ。
 お良は、そのあまりの速さにビックリ。
 「やった。この札だけは狙っていた」と清三郎が歓声を上げる。

 「 むらさめの つゆもまだひぬ まきのはに きりたちのぼる あきのゆふぐれ」は一字決まりの札。「一字決まり」とは、歌の頭の一字「む」で始まる札が、この一首しかない。そういう頭文字で決る札を「一字決まり」と呼ぶ。
 カルタを始めた初心者が最初に覚えるのが、この「一字決まり」の札。一字決まりの札は合計七首ある。「む・す・め・ふ・さ・ほ・せ」で始まる七首が一字決りである。

 お良にとっては、不覚の一敗だった。

 お松様も約束どおり着物を脱いだ。

 (わたしが拒むわけにはいかない・・・)

 お良も「特別趣向」に従った。脱いだ袷の着物の下にはまだ長襦袢。だが、もう負けるわけにはいかない。万が一にも負けたら、次は肌襦袢一枚だ。お良は得体の知れない胸騒ぎを覚えた。

 当時の衣類に触れておくと、腰巻の上に肌襦袢・長襦袢・着物の三枚を重ねて着るのが普通。気候によって、着物は袷・一重さらには薄物に変わる。長襦袢も気候により着たり着なかったりして調整。暑い夏は浴衣一枚で過ごしたりする。
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