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フリマアプリの恋人
第4章 芍薬の涙
風呂は柊司に先に使ってもらった。
廊下で、湯上がりの男とすれ違う。
澄佳に微笑みかけ、部屋に向かう柊司をそっと振り返る。
…父親の藍染の浴衣が背の高い男に、とても良く似合っていた。

丁寧に髪と身体を洗い、湯船に浸かる。
心臓がことことと音を立てる。
…本当は、逃げ出してしまいたいほどに緊張しているのだ。
いや、逃げ出したいけれど、同じくらいに…それ以上に柊司に愛されかった。

…私…これから柊司さんと…。

澄佳が最後に男に抱かれたのは五年前だ。
かつての恋人、片岡と別れて以降は誰とも身体を交わしたことはない。

…だから…。

澄佳は湯気で曇った鏡を、そっと指先で拭いた。
…生まれたままの自分の姿が映し出される。

…私は…美しいのだろうか…。
じっと己れの姿を見つめる。
緊張のためか蒼ざめた白い肌…か細い身体…乳房は大きくはない…。
むしろ、小さくて幼い少女のようだ…。
…コンプレックスばかりが、目に付く…。

…それに…もう、三十だ…。
弾けるように瑞々しい若い肉体ではないはずだ。

…この身体を…柊司さんは、気に入ってくれるのだろうか…。

澄佳はため息を吐き、掛け湯をした。
透明な湯が白く艶やかな肌に、さらりと流れてゆく。

…分からない…。
分からないけれど…。

…愛されたい…。

澄佳は自分の身体を両手で抱きしめる。

身も心も…深く愛されたい…と、澄佳は生まれて初めて強く思うのだった。


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