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フリマアプリの恋人
第4章 芍薬の涙
自室に戻ると柊司は開け放たれた窓辺に立ち、外を眺めていた。
…身体に馴染んだ潮風が、澄佳の心を落ち着かせる。
静かな微笑みを見せながら振り返り、柊司はゆっくりと近づいてきた。

澄佳の全身を眺め、褒め称える。
「…浴衣が良く似合うね。とても可愛い…」
…亡くなった祖母が澄佳に仕立てくれた浴衣は、白地に薄桃色の芍薬の花が描かれた華やかなものだった。
柊司に芍薬を贈られ、久しぶりに袖を通そうと和箪笥から出してきた。
絹の兵児帯は子どもっぽいかと思ったが、濃い苺色が綺麗で気に入っていた。

「…綿呂の浴衣は、上品ですね。
…澄佳さんに良く似合う…」
浴衣のあわいを指先で撫でられる。
胸の鼓動を抑えながら尋ねる。
「清瀧さんは、着物に詳しいんですね…」
「…義母が茶道教室を開いていて…よく着物を着ているからね…」
…一瞬、不思議な温度と色合いを含んだ眼差しになる。

…私の知らない彼がまだまだたくさんあるのだと、微かに思い知らされる。

澄佳が口を開く前に、そのしなやかで引き締まった腕に抱きとられた。
「…柊司だよ、澄佳さん…」

甘い口調に誘われ、素直に繰り返す。
「…柊司さん…」

男は艶めいた端整な瞳で微笑うと、そのまま澄佳の手を引いた。

「…おいで…澄佳…」

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