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フリマアプリの恋人
第4章 芍薬の涙
…プロポーズ…プロポーズされたのだろうか…?
言葉が現実だとしても、澄佳はまだ信じられなかった。

…結婚…。私と柊司さんが…結婚…?
あり得ない…そんなこと…考えても見なかった…。

「…あ…あの…」
…本当は嬉しい…。
信じられない幸せに、気が遠くなるほどに嬉しい…。
…けれど…。

…片岡の言葉が、亡霊のように蘇る。

…「君は重いんだよ。
君みたいな女は男を疲れさせる。
…そんな非難がましい貌ばかりされて…男が喜ぶとでも思っているのか?」
…片岡の冷たい言葉…冷たい貌…
…そして、澄佳に見せた冷たい背中…。

それらが脳裏に浮かび、澄佳の思考を停止させる。

…私…。
澄佳は唇を噛み締める。

「…わ…私は…柊司さんに相応しくありません」
…相応しくない…。
分かっている…。
…柊司を愛している…。
こんなに愛したひとはいない…。
…けれど、自分が彼に相応しい女ではないことは、身に染みて分かっているのだ…。

「澄佳さん?」
怪訝そうに柊司が眉を顰める。
…意を決して口を開く。
「…私…大学も出ていないし…」
…高校を卒業し、祖母の店を手伝いながら調理師と栄養士の資格を取得した。
祖母は大学進学を勧めてくれたけれど、きっぱり断った。
…祖母に経済的負担をかけたくなかったのだ。

「関係ないよ、そんなこと」
きっぱりと首を振る。
…そんな彼は、やはり澄佳には恵まれた…すべてのものを持ち得た眩しいひとだ…。
「…関係あるわ。恋愛はともかく結婚は家と家との結びつきでしょう。
…柊司さんのお家は家柄も良くて良家だわ。
…こんな田舎町の小さな食堂をやっている私と…有名大学の准教授の貴方…。
釣り合いが取れないわ…」
…口に出すと、現実をまざまざと思い知らされる。

柊司は無言だった。
それはそうだろう。
せっかくプロポーズしてくれたのに、こんなネガティブな返答しかできない自分だ…。
…こんな…コンプレックスだらけの女に…プロポーズしたことを後悔しているのかも知れない…。



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