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フリマアプリの恋人
第4章 芍薬の涙
…沈黙の時間が永遠にも感じた。
波の音だけが、二人の間に静かに流れる。

ふっと息を吐く音がしたのち、柊司がその温かな手を再び澄佳の頬に伸ばした。
…その手は優しく澄佳を撫でる。

「…澄佳さんはまだ僕に話せないことがあるんだね」
はっと眼を見張り…柊司を見上げる。
…そこには、不快な表情など微塵もなく…ただ慈しみと温かな愛の色があるだけだった。
「…まだ、話したくない?」

澄佳は一瞬瞼を伏せ…小さく頷いた。
「…話せば…柊司さんは私を嫌いになるわ…」
「まさか!そんなこと、ある訳がない」
力強い声…そしてそのまま逞しい胸の中に抱き込まれる。
やがて、穏やかな声が聞こえた。
「…でも…分かった。
急がないよ。
澄佳さんがすべてを話してくれて、僕のプロポーズを受ける気になるまで、僕は待つよ。
いつまでも、待つ」
…温かな胸…穏やかな鼓動の音が、澄佳の鼓膜に響く。
「…柊司さん…」
ゆっくりと腕が解かれ、見つめられる。
「…これだけは覚えていて。
僕はどんな君でも愛している。どんな過去でもすべてをひっくるめて君が好きだ。
だから、僕を信じて」
美しく澄んだ眼差しが澄佳を見つめる。
張り詰めていた心が、その言葉により少しずつ解けてゆくのを感じる。
…気がつくと頬を伝わる涙を、柊司に優しく拭われていた。
柊司は静かに微笑った。
「…これから、ゆっくり分かり合っていこう。
時間はたくさんある…」
「…柊司さん…!」

澄佳の震える白い手が、柊司の端整な貌に触れ…引き寄せた。
「…愛しているわ…」
…密やかな…初めての愛の告白は、波の音に消されることはなかった。



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