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フリマアプリの恋人
第5章 チャイナローズの躊躇い
その夜の営業は、お祭り騒ぎのように幕を下ろした。

…いきなり店に現れ、澄佳の手伝いをし始めた都会的で如何にも育ちが良さそうな美男に常連客たちはどよめき、澄佳に尋ねた。

「…澄ちゃん、あの男前は誰だべか?」
澄佳はくすぐったい思いで…けれどはっきりと答えた。
「…私が今、お付き合いしているひと…。
清瀧柊司さん」
常連客たちから野太い歓声が上がる。
「澄ちゃんの恋人か?いやあ、驚いたなやあ…!」
「何してるひとだべか?」
「東京の大学の先生よ…」
「か〜!こりゃまたインテリさんじゃのう…!」
「澄ちゃん、良かったなあ。
儂ゃ、自分のことみたいに嬉しいだよ」
「兄ちゃん、澄ちゃんを頼んますよ。
澄ちゃんはこの町のマドンナやからね。
幸せにしてやってくれよ」
身内のように喜び、握手を求める常連客たちに、柊司はにこやかに笑いながら、きちんと挨拶を返していた。
「こちらこそ、よろしくお願いします。
皆さんの澄佳さんは、僕が大切にお守りします。
どうぞご安心ください」
…カウンター内でにっこりと笑う男は知的で端正で言葉遣いも物腰も穏やかで品が良く、この小さな素朴な漁師町には一人も見かけないタイプだ。
常連客たちはすっかり心酔しきっていた。

「…どこかの王子様みたいや…。
涼太で手を打たんで、ほんまに良かったのう。澄ちゃん」
常連客はしみじみと頷く。
傍らでビールを飲んでいた涼太が咳き込み、むっとして反撃した。
「うるせえよ、クソじじい!
年寄りは早く帰って寝ろ!」
…けれど直ぐに澄佳をちらりと見遣り
「…良かったな、澄佳。おめでとう」
とぶすりと呟いた。
「…ありがとう、涼ちゃん…」
常連客たちが賑やかに柊司にビールを勧めに行く様を見ながら、この幸せをまだ信じられない気持ちで受け止めていた。

…本当に…私は柊司さんと結婚して良いのだろうか…。
幸せに…なって良いのだろうか…。

…ふと、脳裏に浮かぶのは…
あの男と…あの思い出すのも辛い出来事だ…。

…本当に…私が幸せになっていいのだろうか…。

物思いに沈み込む澄佳の耳に淡々とした…しかし限りなく優しい声が届いた。
「…幸せになれ、澄佳。
なっていいんだ」
「…涼ちゃん…」
涼太は、幼い頃から少しも変わらない無愛想な貌の中に温かな笑みを浮かべ、言い聞かせるように呟いた。
「…あいつと幸せになれ」



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