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第6章 チャイナローズの躊躇い 〜告白〜

「…酷い女でしょう…私…。
本当に狡いのは、私なんです…」

…夢から覚めたように遠い眼をした澄佳がゆっくりと柊司を見上げた。
その姿は、幽幻の彼方にいるかのように幻想的でぞくりとするほどに美しかった。
「…自分の哀しみと憤りを楯に、あのひとを頼り…縋ってしまった…。
逃げる場所が欲しかったんです」
柊司はきっぱりと答えた。
「…僕はそうは思いません。
澄佳さんは本当に宮緒さんを好きだったんですよ。
…逃げ場なんかじゃない。
真実の愛が、お互いにあったんです。
…だから、今も美しく心に残っているのではありませんか？」

柊司の言葉は、澄佳の心の奥底まで染み通り、まだ微かに残っていた見えない棘をも優しく溶かしていった。
「…柊司さんは、優しすぎるわ。
こんな…愚かな私の話を聞いてくれて…普通なら愛想を尽かしてもおかしくないのに…」
「…愚かだなんて思いません。
澄佳さんは一途に生きてきたのです。
…ただ、愛を求めて…。
貴女の真実の物語を、僕は知りたいのです」

瞬きもせずに柊司を見つめる黒い射干玉の瞳から水晶のように美しい涙が溢れ落ちる。
柊司はその涙を優しく指で拭い、端正な眼差しで慈しみ深く微笑み掛けた。

「…だから、貴女の物語を聴かせてください。
それは貴女がすべての過去から解き放たれることにもなるのだと、僕は思います」