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フリマアプリの恋人
第7章 秋桜の秘密
「澄佳、澄佳ってばよ」
ぼんやりしている澄佳の耳に涼太の声が響く。
「…あ、ごめん。何?」
店のカウンターキッチンの向こうから慌てて貌を上げる。

涼太が、ふんと唇を歪めながらピースを咥えた。
「行くか?ヤツのところに」
「…え?」
眼を見張る澄佳に大袈裟にため息を吐いて見せながら、涼太は立ち上がりキャップを被った。
「今から車飛ばせば、東京には夜には着く。
…ヤツの貌が見たいんだろ?」
涼太の言葉の意味に合点をいかせる。

…柊司さんに会いたい…。
会って私が出来ることを、何かしてあげたい…。
でも…。
躊躇しながら口を開く。
「…でも…私が行っても迷惑かも知れないし…。
お店もあるし…涼ちゃんだって、明日漁が…」

男らしい顎で、雨粒が叩きつけ出した夕景の窓をしゃくって見せる。
「この天気だ。今夜は客も来ねえよ。
明日は海も時化る。
船は出せないから漁師たちは家でゴロ寝だよ。
俺もな」
「…涼ちゃん…」

声を詰まらせる澄佳に、涼太はにやりと笑ってみせた。

そうして、人差し指に通した車のキーをぐるぐる回した。
「五分で支度しろ。
俺の気の変わらない内にな」
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