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フリマアプリの恋人
第7章 秋桜の秘密
…由貴子が酷い風邪を引き、寝込んでから数日が経っていた。

「奥様は食欲がないと仰って、何も召し上がらないんですよ。
あんなに華奢な方が…。大丈夫でしょうかねえ」
家政婦の春が手付かずの粥が載った盆を手に、ため息を吐いた。
「…そう…」

…父親は大手企業に依頼された研究の実用化が佳境に入り、もう2週間も帰宅していなかった。
由貴子は父親に心配をかけたくないと自分が寝込んでいることを伝えてはいなかったのだ。

…お嫁にいらしたばかりで…心細いだろうな…。
そう思う柊司も、まだ嫁いで来て日が浅い由貴子に気恥ずかしさが先に立ち、余り懐いてはいなかった。
由貴子はまだ二十四歳と歳若で…しかも一度見たら誰しもが眼を奪われるような大変な美貌の持ち主だったからだ。

…まだ、母様とも呼んでなかったな…。
十二しか歳が離れていない若く美しい女性に対して呼ぶことに遠慮があったことと…何処かで亡くなった母親に済まないような気持ちがあったからだろう…。
「由貴子さん」
そう呼んでいた。
由貴子はにこやかに返事をしてくれていたが、その微笑はどこか寂しげであった。

…「由貴子さんは、柊司のお母様になりたいからと言ってお嫁に来てくださったのだよ」
由貴子がこの家に嫁いで来た夜、父親は密かに柊司に告げた。
…「柊司を少しでも幸せにしたいからと仰っていた。
…だから由貴子さんに優しくしてあげてくれ。
私はこれからも研究に忙しく、なかなか家に帰れないだろう。
その分、柊司が由貴子さんを助けてあげてくれ」
…由貴子さんを守ってあげてくれ…。
穏やかに…しかし真摯に託したのだ。

…父様…。
柊司は表情を引き締めると、春に告げた。
「…ちょっと、出かけてくる。
すぐに帰るから、由貴子さんを頼むね」
そう春に告げると、柊司はそのまま家を後にした。



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