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フリマアプリの恋人
第7章 秋桜の秘密

…小一時間ほどして柊司は帰宅した。
母屋の長い廊下を渡り寝室の前まで来ると、柊司は跪いて襖越しに声をかけた。
「…由貴子さん、柊司です。
…今、大丈夫ですか?」
まもなくして、驚いたような小さな声が返ってきた。
「柊司さん?」
柊司は静かに襖を開けた。
睡蓮の柄を染め抜いた浴衣を着た由貴子が、起き上がろうとしていた。
その貌は透き通るように白く儚げで幽玄な日本画美人のようであった。
由貴子は慌てたように声を上げた。
「こちらにいらしてはだめよ。
柊司さんに風邪が感染ってしまうわ…」
柊司は構わずに由貴子に近づいた。
「僕は丈夫だから大丈夫です。
…あの…これ…。冷たい内に食べてください」
茶色の紙袋に包まれたものを差し出す。
白く細い指先がおずおずと受け取る。
中のものを取り出し、由貴子が眼を見張る。
「…プリン…?」
それは古風な硝子瓶に納められた昔ながらのプリンであった。
「…前に由貴子さんが一番好きなものはプリンだって言っていたから…。
…駅前の古い洋菓子店のプリンなんです。
僕も昔からこの店のプリンが大好きで…。
ちょっと固めで甘めで…卵と牛乳の味がしっかりしていてカラメルも美味しいんです。
…最後の一個だったから…買えて良かった…」
不器用に言葉を連ねる柊司を、由貴子は潤んだ瞳でじっと見つめた。
「…ありがとう…柊司さん。
…いただくわ…」
蓋を開け、備え付けの木の小匙でひと匙拯う。
その形の良い薄紅色の唇が開かれる。
一口食べた由貴子の美しい貌に柔らかな…幸せそうな微笑みが浮かんだ。
「…すごく美味しいわ…。
私、こういう硬めのプリンが大好きなの…」
柊司の肩から力が抜ける。
「…良かった…」
「…ありがとう…。柊司さん。
…なんだか元気が出てきたわ」
ふた匙…三匙…と無邪気に食べ進む由貴子を見つめて、柊司は真っ直ぐな口調で告げた。
「由貴子さん。…父様が留守がちだから心細いかもしれないけど、僕が由貴子さんのことは守るから…。
まだまだ頼りないけど…由貴子さんを守れるように頑張るから…。
何でも相談してください」
驚きに息を飲む由貴子に、少し恥ずかしそうに囁いた。
「…だから早く良くなってください。
…母様」
由貴子の潤んだ美しい瞳が大きく見開かれ…水晶のように透明な涙が一雫、その白い頬に溢れ落ちた…。
母屋の長い廊下を渡り寝室の前まで来ると、柊司は跪いて襖越しに声をかけた。
「…由貴子さん、柊司です。
…今、大丈夫ですか?」
まもなくして、驚いたような小さな声が返ってきた。
「柊司さん?」
柊司は静かに襖を開けた。
睡蓮の柄を染め抜いた浴衣を着た由貴子が、起き上がろうとしていた。
その貌は透き通るように白く儚げで幽玄な日本画美人のようであった。
由貴子は慌てたように声を上げた。
「こちらにいらしてはだめよ。
柊司さんに風邪が感染ってしまうわ…」
柊司は構わずに由貴子に近づいた。
「僕は丈夫だから大丈夫です。
…あの…これ…。冷たい内に食べてください」
茶色の紙袋に包まれたものを差し出す。
白く細い指先がおずおずと受け取る。
中のものを取り出し、由貴子が眼を見張る。
「…プリン…?」
それは古風な硝子瓶に納められた昔ながらのプリンであった。
「…前に由貴子さんが一番好きなものはプリンだって言っていたから…。
…駅前の古い洋菓子店のプリンなんです。
僕も昔からこの店のプリンが大好きで…。
ちょっと固めで甘めで…卵と牛乳の味がしっかりしていてカラメルも美味しいんです。
…最後の一個だったから…買えて良かった…」
不器用に言葉を連ねる柊司を、由貴子は潤んだ瞳でじっと見つめた。
「…ありがとう…柊司さん。
…いただくわ…」
蓋を開け、備え付けの木の小匙でひと匙拯う。
その形の良い薄紅色の唇が開かれる。
一口食べた由貴子の美しい貌に柔らかな…幸せそうな微笑みが浮かんだ。
「…すごく美味しいわ…。
私、こういう硬めのプリンが大好きなの…」
柊司の肩から力が抜ける。
「…良かった…」
「…ありがとう…。柊司さん。
…なんだか元気が出てきたわ」
ふた匙…三匙…と無邪気に食べ進む由貴子を見つめて、柊司は真っ直ぐな口調で告げた。
「由貴子さん。…父様が留守がちだから心細いかもしれないけど、僕が由貴子さんのことは守るから…。
まだまだ頼りないけど…由貴子さんを守れるように頑張るから…。
何でも相談してください」
驚きに息を飲む由貴子に、少し恥ずかしそうに囁いた。
「…だから早く良くなってください。
…母様」
由貴子の潤んだ美しい瞳が大きく見開かれ…水晶のように透明な涙が一雫、その白い頬に溢れ落ちた…。

