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フリマアプリの恋人
第7章 秋桜の秘密
柊司の部屋のチャイムを鳴らしたが、反応がない。
…まだ大学か…瑠璃子の病院にいるのだろう。
澄佳は遠慮勝ちにそっと玄関の鍵を開けた。

…中に入ると、玄関の電気が点いていた。
三和土を見て、息を飲む。
…高価そうな女物の皮草履…。
誰がいるのか…想像しなくても分かった。

…けれど、動揺してはいけないと自分に言い聞かせる。
…たまたまいらしているのかも知れないわ…。
瑠璃子ちゃんの非常時ですもの…。
お義母様が柊司さんを頼って、ここにいらしても不思議じゃないわ…。
ドキドキと煩いほどに鼓動を刻む胸を押さえながら、廊下を進む。
…どこにいらっしゃるのかしら…。
廊下を通り過ぎようとした刹那…左手の寝室内で密やかな…けれど艶めいた女の声が聞こえたのだ…。

「…貴方が好きなの。
ずっと…ずっと愛していたの。
貴方だけを…愛していたのよ…」
狂おしい愛の告白が聞こえた。
…由貴子の声だ…。

細く開いたドアの前に、震える脚が吸い寄せられる。

…柊司のベッドに上半身を起こした艶やかな浴衣姿の由貴子が柊司の逞しい胸に抱かれ、泣きながら掻き口説いていた。
「…貴方を…愛しているの…」
由貴子の白魚のような手が柊司の引き締まった貌の輪郭を辿り…貌を寄せる。
熱情を秘めた美しい眼差しが、柊司を見上げる。
…その形の良い薄紅色の唇が、柊司の唇に押し当てられた…。

「…っ!」
声にならない叫び声を上げる。

その気配に柊司が振り返る。
「澄佳…」
信じられないものを発見したかのように、柊司の端正な貌が驚愕へと変化した。
…それはさながら、澄佳を排除するかのように見えた。

思わず後退る澄佳に手を伸ばす柊司のそれが、由貴子の白い手に絡め取られる。
由貴子のほっそりとした透き通るような両のかいなが、しなやかに柊司の首筋を抱く。

「…愛しているの…。
誰にも渡さないわ」
甘く淫蕩にすら聞こえる声と裏腹に、冴え冴えと冷え切った眼差しを、由貴子は澄佳に当てた。
「貴女には渡さない…」

美しい唇が蠱惑的な弧を描き…そのまま狂おしいほどに濃密な口づけを、柊司に与えた。

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