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フリマアプリの恋人
第1章 prologue
「まあ、柊司さん。いらしてくださったのね。
…あら、瑠璃ちゃん、またベッドから降りたりして…カーディガンはどうしたの?…靴下も履かないで…」
由貴子は部屋に入るなり、美しい眼を見開いた。

「うるさいなあ、ママはもう!」
柊司の隣のソファに座り、瑠璃子はタピオカドリンクを飲みながら、頬を膨らます。
「こら、瑠璃子。お母様に向かって何て口を聞くんだ」
窘めても、瑠璃子は涼しい貌だ。
「だって本当にママ、うるさいんだもん」
ぽんぽんと好きなことを言うその姿はごくありふれた反抗期の少女だ。
そんな瑠璃子を由貴子は嬉しそうに見つめるだけで、決して怒らない。
…それは、一年前の瑠璃子を見ているからだろう。


ただひたすら部屋に閉じこもり、すべての人間との接触を拒み…挙句の果てには密かにネットショッピングで入手した睡眠薬を飲み、自殺未遂を図った。

発見が早かったのと、飲んだ量がさほど多くはなかったことで大事には至らなかったが、瑠璃子が運ばれた病院で由貴子は子どものように泣きじゃくっていた。
駆けつけた柊司は、崩れ落ちそうになる由貴子を強く抱きしめた。

「…母様…!」
…かつて…自分の夫が亡くなった報を聞いても、決して涙を見せなかった由貴子は、形振り構わずに泣き崩れ、柊司の胸に縋り付いた。
「…柊司さん…柊司さん…」
震える声で、柊司の名を呼ぶ由貴子をまるで恋人のように髪を撫でた。

「…大丈夫ですよ、母様。瑠璃子は助かりました。
泣かないで下さい…母様…」

…母様と呼ばないと、熱く湧き上がる情動で何をするか分からない自分がいた。

…腕の中の由貴子はまるで少女のように華奢で頼りなげで…そしてあえかな花の薫りがした…。
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