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フリマアプリの恋人
第4章 芍薬の涙
晩御飯の時間は、とても楽しかった。
澄佳は房総の郷土食の散らし寿司とアジフライ、サザエの壺焼き、カリフラワーとアスパラのマリネなどで柊司をもてなした。
柊司はどうやら和食の方が好きらしいと感じたからだ。

柊司はどの料理も美味しいと褒め称えてくれた。
口が肥えているらしい男に料理を褒められると、とても嬉しかった。
柊司が持ってきてくれた芍薬は、自分の部屋に生けた。
…独り占めしたかったからだ。

食後は庭の縁先に移動した。
縁先に並び潮騒を聴きながら、柊司の土産のワインを飲んだ。
ワインは貴腐ワインだった。
とろりと甘いデザートのようなそれは、ワインに弱い澄佳をすぐに酔わせた。

上気した頬を気にする澄佳の髪を、柊司はそっと撫でた。
…その手触りはあくまで優しく、澄佳の強張りを柔らかく融かしていった。

澄佳は柊司の肩におずおずと頭を凭せ掛けながら、口を開いた。
「明日はフラワーラインをご案内します。
…今は初夏の花ですけれど…色々な花が咲いていて綺麗なんです」
「それは楽しみだ…」
「…それから…ずっと行ってみたかったフレンチのお店にご一緒していただけますか?東京の三つ星レストランで修業をしたシェフがお店を開いているんです」
「喜んで…」
「…それから…植物園に行って…」

柊司の手が静かに…しかし、情熱的に澄佳の貌を引き寄せた。
「…何の花が見られるの?」
男の熱い眼差しに心の底までも射抜かれそうで、思わず震える。
…耐えて続けようとするのに…
「…亜熱帯の植物や珍しい南国の植…」
…男の熱い唇に塞がれ、続きの言葉は形をなさなかった。

…熱く長く甘い口づけを与えられる…。
貴腐ワインよりも遥かに甘いそれは、したたかに澄佳を酔わせ…痺れるように絡め取るように耽溺させた…。


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