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フリマアプリの恋人
第4章 芍薬の涙
…おかしなひと…。
何もしなくていいだなんて…。
澄佳はふっと微笑んだ。

…澄佳のかつての男は、いつでも澄佳の身体を執拗に求めた。
そうして傲慢に荒々しく身体を支配し、自分以外は見られないように身も心も雁字搦めに束縛をした。
まだ処女だった澄佳はしかし、底なし沼に堕ちたかのように男に夢中になり…その膿んだような快楽に溺れた。
無垢な身体を男に開かれ…男の色に染められ…男の身体なしではいられないように淫らに開発された。
だから、不実な男の仕打ちにも目を瞑るしかなかった。

…男と別れ…切なく熱く疼く己れの淫らな身体を激しく憎んだ。
もう、恋をするつもりはなかった。
男に身も心も翻弄される…そんな辛い想いはしたくはなかったのだ。
…このまま、田舎の海の小さな町で…ひっそりと枯れていくつもりだったのだ…。

…それなのに…。

澄佳は、静かに眠り続ける男を見つめる。

…フリマアプリの画面から現れたこの男は…澄佳の心の扉を穏やかに叩き…気がつくと澄佳の心を奪っていた…。
…しなやかに…優しく…。

「…鈍感なひと…。
私はとっくに…貴方に夢中なのに…」
聴こえないように呟き、身を屈める。
…初めて自分から、キスをする。
男の唇は、温かかった。
男の睫毛が僅かに震えた。

…柊司がそっと瞼を開き…澄佳に無邪気に笑いかけた。
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