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フリマアプリの恋人
第4章 芍薬の涙
…昨夜、柊司は澄佳を腕の中に抱きながら眠った。
キス以上のことはしなかった。
身体を需めない柊司に、澄佳は戸惑ったような眼差しをした。
…過去の男は、この秘められた美しい花のようなひとの肢体を思うままに扱っていたのではないかと疑念が浮かび上がり、一瞬苦しくなった。

…けれど柊司は、昨夜はただ澄佳を抱いて眠りたかったのだ。
腕に抱いた澄佳は華奢で、強く抱きしめたら砕けて消えてしまいそうな儚げな身体をしていた。
洗いたての美しい黒髪からは、シャンプーの良い薫りがした。
澄佳はしばらくは、身体を硬くしていたが、やがて柊司の胸に貌を埋めるようにして身体を預け、眠ってくれた。
それがとても嬉しかった。

澄佳には少しずつ自分を好きになっていって欲しかった。
身も心も自分に委ねたいと願うようになって…澄佳と身体を契り合いたいと、心から思ったのだ。
澄佳には、どこか男の庇護欲を唆る野に咲く花のような可憐さ…そしてしっとりと密やかに咲く淫靡な花のような官能性があるように感じた。
その花を自分の手で散らすことを思い描くと、柊司は初めて血が滾るような己れの獣性に気づくのだ。

…けれど…。

運転席で、意外なほどに巧みなハンドルさばきで車を走らず澄佳をそっと見る。

その透明な美しさを湛えた愛おしいひとの横顔を見ながら、大切に愛したいとしみじみと感じ入るのだった。

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