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フリマアプリの恋人
第4章 芍薬の涙
昼食は海が見える高台のフレンチレストランで摂った。
こじんまりとした瀟洒な洋館の個人邸を改築したようなヌーベルギュイジーヌのフレンチレストランは、海辺に住まう別荘族御用達のやや敷居の高い店だ。
そして、兼ねてから澄佳の憧れの店であった。

初老のギャルソンに丁重に案内され、海が臨める窓辺の席に着くと、澄佳は内緒話するように小声で告げた。
「…ここ、ずっと来たかったんですけど、一人じゃ来にくいし、一緒に来てくれるひともいなくて…。
だから、良かったです」

穏やかに笑う柊司は昨日とは違う薄い空色のシャツに爽やかなアイボリーの麻のジャケットだ。
目立って派手なブランド物ではないが、一目で仕立ての良さが分かる品だった。
ギャルソンが一目置いたように丁寧に柊司に革張りのメニューを渡し、敬意を表しているのが見て取れた。

「涼太さんとは?
彼なら喜んで一緒に来てくれるんじゃないですか?」
「…涼ちゃんは、こういうお店は堅苦しいから嫌だ…て断られました。
俺はサンダル履きで行けるところじゃないと行かねえよ…て。本当に頑固なんです」
ため息をつく澄佳を愛しげに見つめる。
「涼太くんとは仲良しなんですね。
幼馴染み…ていいね」
「…涼ちゃんとは家が近所で…。
幼稚園からずっと一緒なんです。
私の両親が亡くなった時も、涼ちゃんの家にはとてもお世話になって…。祖母の店が忙しい時には一緒にご飯を食べさせてくれたりしました。
涼ちゃんのおうちは漁師なんですけど、お母さんがお魚屋さんを経営しているんです。
明るくて優しくて…。随分と救われました…」
小太りでころころと良く笑うひまわりみたいに陽気な涼太の母親…。
…澄ちゃんが涼太のお嫁さんになってくれたら、あたしゃもう冥土に行っても悔いはないんだけどねえ…。
澄ちゃんみたいな別嬪さんは、涼太みたいなガサツな馬鹿じゃ駄目だよねえ…。

澄佳が片岡に連れ去られるように東京へ行き…数年後、ぼろぼろに疲れ果ててこの町に帰って来た時も、何の偏見も見せずにそう言って笑いかけてくれた涼太の母親をふと思い出す…。

…涼ちゃんを愛せたら…。
何度そう思ったか知れない…。
…けれど…。


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