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フリマアプリの恋人
第4章 芍薬の涙
「野島灯台に行きましょう。
あそこの海岸から見る夕陽は本当に綺麗なんです」
澄佳の提案で、灯台が佇む海辺を訪れる。

海岸道路に車を停め、車外に出た。
涼しくなった潮風が頬を撫でる。
目の前には茜色に染まりつつある空と、天使の髪のような黄金色に煌めく穏やかな内房の海が広がっていた。

「…懐かしいですか?この近くに星南学院の研修施設がありますよね。
確か…あの丘の上…」
白く細い指先が山側のなだらかな丘陵を指し示す。
白亜の瀟洒な建物…。
柊司が中等部、高等部で滞在した母校の施設だった。

「そうだ。思い出した。
この灯台に登ったり、海でヨットに乗ったりしたな…。
高等部の時は、僕は馬術部だったから少し離れた馬場で合宿三昧だった」

…かつての少年時代の記憶が夢のように蘇る。
中等部の時には、嫁いで来たばかりの由貴子が参観に来てくれた。
夏の白い呂の着物を着た由貴子は大変に目立っていたっけ…。

…「柊司のお母様は若くてすごい美人だな」
と、友人に冷やかされ照れくさいような誇らしいような気持ちになったものだ…。
美しい義母を自慢したいけれど、他人に見せたくなくて
「もう来なくていいよ」
と、やんわりと断ったっけ…。

「…ヨットに馬術…か…。すごいわ。
やっぱり星南の生徒さんて、桁外れにお金持ちなのね…」
ぽつりと呟く声が聞こえた。
「単なる伝統ですよ。ヨットだって馬だって僕が所有していた訳じゃない。たまたまです」
…それよりも…と、澄佳の手を引き寄せる。
「…澄佳さんはここには来た?学生の時…」
夕陽に照らされた澄佳の瞳が眩しげに細められた。
「…時々…。友だちと泳ぎに来たわ。
…でも、星南の生徒さんが滞在している時は来なかった。…みんなお坊っちゃまばかりで…なんだか恥ずかしくて…」
握りしめた指に唇を寄せる。
「残念。出会っていたら、僕はきっと君に恋したのに…」
切なげにため息を吐き、澄佳は手を振り解いた。
そうして、砂浜へと続くなだらかな坂道を駆け出した。

…不意に振り向き、怒ったように叫んだ。
「やっぱりキザ!…それに…そういうこと、誰にでも言うんでしょう?」

波打ち際に走り出す澄佳を、柊司は苦笑しながら追いかけた。
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