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夢見の国
第2章 甘美な冷遇
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「ラ、ラーストさん…っ?」


焦った声を上げると、ラーストはもう一度息を吐き出した。

そして、次に視線を上げた時には、そこには残酷な色を讃えたラーストの瞳があった。


「物狂い、もしくは…隠者か」


も、物狂いって…あんまりではないかと内心突っ込みたかったが、今のラーストはとにかく怖かった。

控え目に言葉を選ぶ。


「隠者…?って、スパイって事?」


ラーストは不愉快そうに眉を寄せた。

ひぃっとあたしは身を引いた。


「異国の言葉を容易に話さぬ事だ。我が国はな、数年前に異国の民にこの地を汚された。その恨みが根深く残っているんだ…お前達の好きなようにはさせない」


憎い、とその瞳が言っていた。

その視線を息苦しく感じて、それが殺気なのだと気付く。

初めて向けられたそれが、何よりもラーストからのものだという事に、あたしは衝撃を受けた。


「ちょ…っと、待ってよ…。あたしが、その異国の仲間だって言うの!?」

「ならば、違うという証明をしてみせろ」


ラーストの殺気に、勝手に体が震え出した。

縛られた両手が痛い。


信じられなかった。

颯爽と駆けて来て、一瞬で心を奪っていったラーストが、今こんな表情で自分を見ている。

今にもあたしの首を掻き切り、何なら殺してしまいたいと言いたげな、そんな瞳で。


「…証明なんてない。この世界の者ではない証明は、今着てるジャージと下着よ!証明出来るような技術があればの話だけどね!」

「生意気な口をきく女だ。侮辱と捉らえるぞ?」

「あっ」


あたしの顎をきつく掴み、上向かせたラーストは、唇を逞しい指先で撫でた。


「……っ!」


かぁっと顔が熱くなる。

あたしの一挙一動を観察するように眺めていたラーストが、そこで瞳を細めた。


「歳が23だと…?俺の二つ下とは信じられんな」


息がかかるほど間近に、ラーストの端正な顔を近づけられ、頬がますます熱くなるのを感じて目を逸らした。

ラーストが唇だけで笑った。


「確かめるか」

「…な…!?」


ギシギシと寝台が軋む。
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