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異聞 ヘンゼルとグレーテル
第5章 4
魔女に囚われてから三週間が経とうとしていた。
ヘンゼルは相変わらず鳥籠に押し込められたまま、グレーテルも昼夜問わず魔女の良い様に弄ばれていた。二人が唯一安らげるのは明け方、手を取り合って眠る時間だけ。魔女が二人のその時間を黙認し、グレーテルが起こしに来る直前に布団に戻っているなど、思いもよらずにいた。
空が白み始めた頃、気を失していたグレーテルが二、三度瞬きをして目を開いた。自分の布団を抜け出し、そろそろとヘンゼルの元へと向かう。その後ろ姿を黙したまま見送り、扉が閉まったのを確認して魔女が深いため息を吐いた。
魔女は自分の兄弟どころか親の存在さえ知る事なく、弱肉強食の世界で術を身に付け、戦いながら一人で育つ。それはここにいる魔女も例外ではなく、物心付いた時から一人森の中で生きてきた。その為互いを思い合うヘンゼルとグレーテルの関係は魔女にとって不可思議でしかなく、ヘンゼルのグレーテルに対する責任感もグレーテルのヘンゼルに対する信頼感も物珍しく、好奇の目で観察していた。それが今は互いを信頼し、手を取り合って眠る姿に何処か羨む様な気持ちを抱いてしまう。そんな自分に、魔女は戸惑っていた。
ヘンゼルもグレーテルも食す為に捕らえた筈であろう?
人間は生きる為の糧だ。それは誰に教わる迄もなく、魔女に組み込まれた本能。年月を意識出来るようになって何年経った頃か、初めて一人の人間を食し、魔女は何をどんなに食しても満たされかった飢餓感から漸く解放された。身体の隅々まで力が満ちていく、あの時の感動は忘れられない。その後偶然遭遇した別の魔女に『人を食しなければ死を迎える』と教えられた時、さもありなんと納得した。
人間を食すのは魔女には当然の摂理。人間に恐れられる事も迫害され、時に殺されそうになる事も彼女には日常で、疑問を抱いた事なんてなかった。力を身に付けてからは圧倒的なその差をひけらかし、恐怖に戦く泣き顔を嗤いながら殺めてきた。快楽を与えると甘味が増すことを知ってからはいたぶりつくして屠る事が常となった。どんなに強く拒まれようと、薬草茶を飲ませれば人間の身体は快楽に抗えなくなる。直ぐに悦んで啼き堕ちていく。その様を逐一声に出して伝え、心を壊していくのもまた愉しみの一つ。
ヘンゼルは相変わらず鳥籠に押し込められたまま、グレーテルも昼夜問わず魔女の良い様に弄ばれていた。二人が唯一安らげるのは明け方、手を取り合って眠る時間だけ。魔女が二人のその時間を黙認し、グレーテルが起こしに来る直前に布団に戻っているなど、思いもよらずにいた。
空が白み始めた頃、気を失していたグレーテルが二、三度瞬きをして目を開いた。自分の布団を抜け出し、そろそろとヘンゼルの元へと向かう。その後ろ姿を黙したまま見送り、扉が閉まったのを確認して魔女が深いため息を吐いた。
魔女は自分の兄弟どころか親の存在さえ知る事なく、弱肉強食の世界で術を身に付け、戦いながら一人で育つ。それはここにいる魔女も例外ではなく、物心付いた時から一人森の中で生きてきた。その為互いを思い合うヘンゼルとグレーテルの関係は魔女にとって不可思議でしかなく、ヘンゼルのグレーテルに対する責任感もグレーテルのヘンゼルに対する信頼感も物珍しく、好奇の目で観察していた。それが今は互いを信頼し、手を取り合って眠る姿に何処か羨む様な気持ちを抱いてしまう。そんな自分に、魔女は戸惑っていた。
ヘンゼルもグレーテルも食す為に捕らえた筈であろう?
人間は生きる為の糧だ。それは誰に教わる迄もなく、魔女に組み込まれた本能。年月を意識出来るようになって何年経った頃か、初めて一人の人間を食し、魔女は何をどんなに食しても満たされかった飢餓感から漸く解放された。身体の隅々まで力が満ちていく、あの時の感動は忘れられない。その後偶然遭遇した別の魔女に『人を食しなければ死を迎える』と教えられた時、さもありなんと納得した。
人間を食すのは魔女には当然の摂理。人間に恐れられる事も迫害され、時に殺されそうになる事も彼女には日常で、疑問を抱いた事なんてなかった。力を身に付けてからは圧倒的なその差をひけらかし、恐怖に戦く泣き顔を嗤いながら殺めてきた。快楽を与えると甘味が増すことを知ってからはいたぶりつくして屠る事が常となった。どんなに強く拒まれようと、薬草茶を飲ませれば人間の身体は快楽に抗えなくなる。直ぐに悦んで啼き堕ちていく。その様を逐一声に出して伝え、心を壊していくのもまた愉しみの一つ。