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第2章 晦日(つごもり)

指を指されてしまった少女――雅は、何事かと呆気に取られてしまったがすぐさま「危ない人」と感じ取り、きびすを返してそそくさと武田と凍りついた淑女から逃げ出した。

しかし――、

(ちょっと、待って――)

雅は数歩歩いて、立ち止まる。

(もしかしたら……)

ごくりと唾を飲む音。

(……もしかしたら、彼なら私の望みをかなえる為に、協力してくれるかもしれない)

雅はおそるおそる武田のほうを振り返る。

端正な顔に蠱惑的な笑みを浮かべて胸の前で腕を組みし、雅の一挙手一投足を眺めていた彼と目が合った。

途端、武田のグレーの瞳がキラキラと輝き、小さく「小鹿ちゃん」と呟いたのが耳に入り、雅は「やはり無理かもしれない」と怖気付きそうになる。

(変態の餌食にされてしまうかもしれない……けれど――)


その数日後、雅は武田に連絡を取り、彼の勤務している病院(彼の父の病院であった)を訪問した。

武田は雅の来訪を心から喜び相好を崩して迎え入れてくれたが、開口一番、雅が口にした「お願い」を聞いても、その様子は変わらなかった。

「武田先生、お願いがあります。私はこれ以上、大人になりたくありません。どうか私に成長を止める薬を処方してもらえませんか?」

武田はどうして雅が成長を止めたいのかと、問い詰めるようなことはしなかった。

ただ一言、雅を試すように言ってのけた。

「抗成長剤って保険利かないと結構高額だよ? それに君のような成長期に投与すると後で、取り返しが付かなくなるだろう。……僕の名誉もあるしね。処方したことがばれてしまったら、僕の立場も危うくなる」

武田の当然の反応に、雅は唇を引き結んで、長身の武田を見上げる。

「先生にご迷惑はお掛けしません。お金は私のポケットマネーで事足ります。もともと私は長くは生きるつもりはありませんし……それまで成長が止められればよいのです」

雅は淡々と武田の質問に答えていく。

「ご協力して頂けるのなら、研究助成金を将来お約束いたします」

好条件を提示して武田を誘惑しているが、雅の大きな瞳は何も映っていないように空虚なものだった。

「助成金ねえ……」

武田はリクライニングのきいた椅子にふんぞり返ると、考え込むように黙った。

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