この作品は18歳未満閲覧禁止です

  • テキストサイズ
第10章 居待月(いまちづき)

「でも……じゃあ、何故? ……なぜ、お兄様は――っ!」

雅は細い指で東海林のスーツの胸に縋り付き、必死な顔で東海林を見上げる。


何故、敦子を愛したのだ? 

何故、子供を認知するというのだ? 

妹の私を独占したいというのなら

――何故?


言外に出さずとも、雅の黒い瞳が雄弁にその心の内を語っていた。

加えて雅は覚えていないと言うが、月哉は加賀美との縁談まで雅に押し付けたのだ。

「……ずるい……」

雅がぽつりと、その紅い小さな唇からこぼした。

雅はそのまま微動だにせず、東海林の胸に縋り付いていた。

泣く事も、怒る事もなく――。

ボーン……ボーン……。

私室に備え付けられたアンティークの振り子時計が、十二の時を鈍重な響きで伝え続ける。

鳴り止むと、雅はゆっくりとその体を東海林から離した。

「……ごめんなさい、東海林。貴方には、本当にいつも変なところばかりを見せてしまう――」

「……光栄ですよ。それだけ雅様が、私に心を許していただいている証拠ですからね……」

雅が無理して笑うので、東海林もその努力を無にしないために、おどけて返す。

「ところで、あんな難しい曲、よくそんな小さな手で弾けますね。音大生でもなかなか弾きこなせないと思いますが……」

東海林がまじまじと、雅の小さくて細い手を見つめる。

(あの曲は高・中・低音部の三段譜で書かれているはずだが、この手でどうして引けるのだろう。しかも、こんな暗い部屋で、譜面も見ずに……)

「ふふ、凄いでしょう……普通この大きさでは弾けないわ」

腑に落ちない顔で見つめてくる東海林に、雅は笑ってみせる。

「悪魔に魂でも売り渡したのですか――?」

まじめな顔で腕組をして尋ねる東海林に、雅は一瞬びくりとしたが、やがて火が付いたかのようにお腹を抱えて笑った。

「ふふふっ 実は私、ハンドパワーを使えるようになったの」

雅はひとしきり笑うと、得意そうに小さな手の平を開いて見せる。

「ハンドパワーなんて、よく知っていますね」

東海林もびっくりして笑う。

雅はたまに、どこで仕入れたのかというような事を知っている。

「あら、信じていないわね――見ていて、今から奇跡をお見せします。部屋の電気を消してくれる?」

/144ページ
無料で読める大人のケータイ官能小説とは?
無料で読める大人のケータイ官能小説は、ケータイやスマホ・パソコンから無料で気軽に読むことができるネット小説サイトです。
自分で書いた官能小説や体験談を簡単に公開、連載することができます。しおり機能やメッセージ機能など便利な機能も充実!
お気に入りの作品や作者を探して楽しんだり、自分が小説を公開してたくさんの人に読んでもらおう!

ケータイからアクセスしたい人は下のQRコードをスキャンしてね!!

スマートフォン対応!QRコード


公式Twitterあります

当サイトの公式Twitterもあります!
フォローよろしくお願いします。
>コチラから



TOPTOPへ