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第11章 寝待月(ねまちづき)

十月十日(とつきとおか)。

胎児が母胎にいる期間だ。

敦子は夏に身ごもり、妊娠五ヶ月の冬に鴨志田に来た。

そして新緑の美しい初夏、安産で男児を出産した。

「ちっちゃい……まだお猿さんみたいだから、お兄様に似ているか、分からないわね」

鴨志田病院の特別室で、敦子の隣に寝かせられた産まれたての赤ちゃんを覗き込み、雅は顔を綻ばせて嬉しそうに言う。

「今は雅にそっくりだけどね」

月哉は敦子のベッドに腰掛けると、雅に片目を瞑って見せる。

「雅、こんなに赤くてしわくちゃじゃないもんっ!」

「雅さん、良ければこの子の名付け親になってくれない?」

幸せそうに皆を眺めていた敦子は、月哉に「いいでしょう?」と確認する。

「……え、い、いいの……?」

雅はびっくりして、月哉と敦子を見比べる。

「もちろん。素敵な提案だ。ちなみに、雅、私が考えていた名前の候補はね……」

言葉とは裏腹に妹を懐柔しようと、胸ポケットから名前の書いてある紙を出す月哉を雅は無視する。

「……五月の皐月からとって皐(すい)とか……お兄様から一文字貰って月(つき)都(と)……なんてどうかな?」

もじもじと照れながら、雅が提案する。

「どちらも綺麗な名前ね」

敦子が瞳を輝かせて喜ぶ。

「ええ、どちらもとても良くて甲乙付けがたいですね」

東海林も感心して呟く。

月哉だけは「ちなみに月太朗とか月彦、月ノ介なんてのもあるけれど……」とまだ諦めきれないようで、ブツブツ呟く。

「……お兄様に名前を付けさせたら、この子が不憫でしょうがなくなっていたわね」

雅は呆れた顔で月哉を見る。

「え、なんで? ………他にはね、月桂樹とか月餅(げっぺい)とか……」

「月都にします」

雅は月哉を完璧に無視して、決断する。

「……鴨志田 月都か……よかったわね、月都」

敦子は赤ちゃんのほっぺをつついて、その名前を受け入れた。







暗い――。

敦子は目を凝らして辺りを見回す。

都会にいるとめったに出会う事の無い『漆黒』という世界は、こういうところを言うのであろう。

自分がまっすぐ歩いているのかさえも分からない、暗黒の世界。

五感をフルに使って、自分はどこにいるのかを感じ取る。

懐かしい土と草の香り、川のせせらぎ。

(川原――?)

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