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第12章 更待月(ふけまちづき)

産後、体調が優れなかった敦子は、病院から本邸へ移ってもベッドの上で横になっていることが多かった。

数時間おきに母乳を飲ませるためには起きられるのだが、それ以外は体が言うことをきかず、臥せってしまうのだ。

反対に月都はすくすくと大きくなり、綺麗な顔にまで成長すると、お祝いに来る誰からも心の底から可愛いと誉められた。

「大きなお目めは雅に似ているね」

月哉は愛おしそうに言う。

「綺麗な鼻筋はお兄様似だわ」

雅は月都を慣れた手付きで抱っこする。

「月都~、雅ママでちゅよ~~」

知らず知らず赤ちゃん言葉になっている雅を、月哉がからかう。

「雅オバチャンの間違いだろ、雅?」

見舞いに来ていた東海林も思わす噴き出してしまい、雅に睨まれる。

「雅はまだ、十四歳になったばかりだから、叔母は嫌ですわ! ……いいの、雅は名付け親なのだから 『雅ママ』で」

むくれる雅を見て、上半身を起こしていた敦子も楽しそうに笑う。

「……なんか『雅ママ』って、銀座のクラブにいたような……」

月哉がそうぼそりと呟くと、雅は目を剥く。

「もう、お兄様のバカ! いい? 月都は絶対お兄様みたいな性格になっちゃ、駄目なんですからね!」

雅は真剣な顔をして月都に力説すると、月都は分かったのかウ~と唸った。

月都に母乳を飲ませると、敦子がまた体調が悪くなったので、雅達は月哉の私室に移動した。

「奥様は体調が戻られないようですね」

東海林が心配そうに、月哉に尋ねる。

「ああ……あんなに安産だったのに、産後にこんなになるとはね」

月哉も予期していなかった事態に、顔を曇らせる。

「お姉様、体力だけは自信があると、おっしゃっていたのにね……」

「夜に眠れないらしいんだ、寝る度に悪夢にうなされているらしくて……。それなのに、眠れても何度も授乳で起きなきゃならないし……最近、精神的にも不安定でね。いつも苛々して……今日は機嫌がよくて良かったよ……」

月哉も付き合って寝不足なのだろう、よく見るとうっすらと目の下にクマがある。

「……ごめんなさい、そうとは知らずに、私、お兄様を何度もハンドパワーで……」

雅は両手を握り締めると、すまなさそうに謝る。

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