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第12章 更待月(ふけまちづき)

「ハンドパワー? ああ、あれか……。いいんだよ、雅は私の特別だからね。ああして呼んでくれないと、雅が寂しいときに側にいてやれないだろう?」

月哉は愛おしそうに、妹の頭を撫でる。それでも、雅は心配そうに月哉を見ていた。

先日の夜の事を、東海林は思い出した。


 
月哉をピアノで呼び出した雅は、最後の和音を弾き終えた。

静かにその余韻を楽しむと、東海林を振り向き、両の手の平を広げて見せ「ハンドパワーです」と、妖しい笑みを浮かべて言った。

ぽかんとする東海林を尻目に雅は立ち上がると、月哉の元に駆け寄り抱き付いた。

「お兄様!」

月哉は抱き付いた雅を受け止めながら、暗い部屋の電気を付ける。

明るくなった部屋の隅に東海林を見つけると、月哉は不思議そうに言った。

「……なんだ、東海林まだいたのか」

「すみません、こんな遅い時間まで。それより月哉様……どうしてここに?」

「……なんか、雅が呼んでいる様な気がしてね――」

二人は狐に摘ままされたように、顔を見合わせた。



あの時はただの偶然かと思っていたが、雅はあれから何度も『ハンドパワー』なるものを使ったらしい。

他愛もない話に花を咲かせながらお酒を飲んでいるとお腹が空き、軽くディナーを取るために食堂へと移動することにした。

月哉の私室を連れだって出ると、雅がぼそりと「月都が泣いている――」と呟いた。

東海林には耳を澄ましても何も聞こえなかったが、雅は踵を返す。

「お二人は先に行ってらして。雅はお姉様のところをちょっと覗いたら、直ぐに伺いますから」

雅はそう言って、早足で敦子達がいる四階に行った。

「雅様は月都様が可愛くて、しょうがないようですね」

東海林は雅の後ろ姿を目で追うと、笑って言う。

つられて月哉も笑う。

「雅、月都なら目に入れても痛くないって言っていたぞ。それ十四歳にしてもう、孫を持ったおばあちゃんの心境だろう?」

二人は顔を見合わせて吹き出した。



先にコースを食べ始めていた二人は、数十分経っても雅が戻らないために心配になり、東海林が見てくると席を立った。

三階にある雅の私室へ先に行くが、案の定、雅はそこにはいなかった。

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