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第12章 更待月(ふけまちづき)

四階の敦子達の部屋へ行こうと雅の私室から廊下へ出ると、外の非常階段へ通じる硝子窓にふと人の気配を感じ、何かと気になって近寄る。

首を巡らせて外を伺うと四階の非常階段の踊り場に、敦子が月都を抱いてネグリジェのまま立っているのが目に入る。

(外の空気を吸いたかったのか? しかしそれならば、広いバルコニーが部屋にあるのに――)

不思議に思って様子を伺っていると、敦子が虚ろな表情で腕の中の月都を頭の上まで持ち上げ、踊り場から階段に向かってゆっくりと歩き出した。

(何か、おかしい……)

異変を察知したのか手の中の月都が目を覚まし、ギャーギャーと甲高い声で泣き始める。

東海林は非常階段への扉を開けようとするが、びくともしない。

「……なぜ開かない?」

ノブは非常時に鍵が無くても内側から外へ出られるようロックが解除出来る造りなのだが、びくともせず解除できないのだ。

「……や……めて……やめて……」

虚ろな顔だった敦子の顔がいつの間にか恐怖に引きつり、両の目から涙を流しながら、細い声で何かに懇願している。

(くそっ!)

東海林は建物の中央にある大階段へとダッシュする。

長い廊下を走りやっと階段を登り切った時、非常階段へ続く廊下の先に雅の姿が見えた。

「雅様っ!」

立ち止まって大声で叫ぶ。

はっとこちらを振り返った雅は、驚愕の表情を見せると直ぐに階段へと出た。

「お姉様――っ、やめてっ!」

直後、雅の悲鳴と何かが転げ落ちる音。

「雅様――っ?」

東海林は再び走り出す。

やっと辿り着いた非常階段に出ると、雅が階段踊り場のの三段下に月都を抱き締めてうずくまっていた。

「雅様! 月都様は大丈夫ですかっ?」

ガタガタと瘧にかかったように震える雅と、その腕の中で火が付いたように泣きわめき続ける月都には目立った外傷は見てとれず、取り敢えずほっとする。

「……奥様は?」

愕然として階段の下を見ると、一番下の踊り場に白いネグリジェを着た敦子がうつ伏せに倒れていた。

「――っ! 誰かっ! 誰か来てくれっ!」

東海林は建物の中の廊下に向かって大声で叫ぶと、自分は四階から続く長い非常階段を降りていく。

震える足でなんとか辿り着くと、敦子の頭をなるべく動かさない様、肩を叩く。

「奥様っ! 分かりますか? 奥様?」

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