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第13章 下弦の月

「……雅の周りは、微笑みや幸せが満ち溢れていたんだ。なのに初等部に入学した雅は感情を持たない、唯の人形になっていた……。あまりの変わり様に不信に思い家のものに調べさせが、両親が亡くなったということ以外は何も分からなかった。

 入学して直ぐ女友達が出来たみたいで、また雅が笑うようになってほっとしたが……友達は直ぐ学園から居なくなった。後で聞いた話によると、雅と仲良くなった女子は周りに嫉妬されて酷い虐めを受け、転校したらしい。

 それからの雅は誰にでも平等に接し、誰にも心を開かなくなった――。中等部に上がってすぐ、雅が脅迫文を印刷しているのを目撃するようになった。高嶋さんへの封筒も見ました」

「……………」

「……俺はもう、傍観していられなかった。雅がどんどん自分を追い詰めて、壊れていく――。だから婚約を申し込んだんだ。安易な発想だった。月哉さんから離れたら、元の雅に戻ってくれるんじゃないかと思ったんだ……」

俯いた加賀美の声が、組んだ指先が、震えていた。

東海林はその姿に、無意識に自分を重ね合わせて見ていた。

(人の心はそんなに簡単には、変えてしまう事はできない。雅様とて、兄の月哉様を愛する気持ちを消し去ることが出来るなら、そうしていただろう。しかし彼も私も、もう壊れていく雅様を見守っているだけなんて、耐えられなかったのだ……)

「……解ります……私も雅様に一緒に逃げて欲しいと、頼みました」

東海林は加賀美の俯いた綺麗なつむじに向かい、告解した。

「……東海林さん……貴方も、雅を……」

加賀美は顔を上げると、少し驚いたように東海林を見返した。

月哉の従順なる第一秘書、かつ、その妹の雅とはふた回り近く年が離れている社会的に立場のある者。

それが、世間一般における東海林の評価だ。

「………………」

(愛している……妹の様にか、女としてかは……まだ、分からないけれど……)

東海林は真正面から見つめてくる加賀美の視線があまりに真っ直ぐ過ぎて、視線を逸らした。

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