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第13章 下弦の月

「貴方は……月哉様が雅様を独占欲で縛り付けている……そう、雅様に言われたそうですね」

「俺は……二人が両親亡き後、どう支え合ってきたかは知らない。しかし、俺には自我を出さない雅を、月哉さんが自分の思い通りにしようとしているように見えて、仕方がなかった……月哉さんは何故、俺との婚約を受け入れたのだろう……」

自分から言い出した雅との婚約を、月哉が断ると思っていたのだろうか。

加賀美は腑に落ちないという顔だった。

「加賀美家と我社が提携する、足掛かりとなるからだと……」

名家の子息子女は親族により婚約を早く、幼少期にも決められる事がある。

また、鴨志田と肩を並べる加賀美との事業提携等が出来れば、国内だけではなく海外での競争力は当然に上がるのだ。

「それだけだと思うか? 俺との婚約は……兄妹間の婚姻が叶わないのであれば、せめて自分が指定した相手と妹を結婚させれば、いつまでも妹を自分の手中に置くことが出来――」

「止めてください!」

加賀美が言い終わる前に東海林が大声を上げて加賀美を制し、眼鏡の奥のその切れ長の瞳で睨み付ける。

いつもは穏やかな東海林が声を荒げるのを、加賀美が驚いた顔で見返していた。

「申し訳ありません……私は確かに、雅様をお慕いしています。しかし同時に、月哉様のこともお慕いしているのです――」

「そうだね……悪かった、憶測でものを言って……申し訳ない」

加賀美は、頭をたれた。

二人の間に重苦しい沈黙が流れる。

「本当に申し訳ありません。加賀美様には一度お受けした婚約を、こちらの都合で破談にしてしまいまして……加賀美代表へのご説明も、全て貴方がされたとお聞きました」

「しょうがないですよ、駄目で元々の最終手段だったんです。雅の気持ちが俺にないことは分かっていながら、雅には何の了承もなく、申し込んだのですから――」

意外にも加賀美はあっけらかんと笑ったが、やはり直ぐ険しい顔に戻る。

「それより……俺は、高嶋さんが亡くなったと聞かされたとき、真っ先に雅を疑いました。どうして転落死なんて事になったのですか?」

「……監視カメラには、奥様が月都様を抱えてご自分で飛び降りた映像が残っていたそうです。月都様だけは、なんとか雅様が助けられたのですが」

「月都っていうんですか、赤ちゃん……」

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