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第13章 下弦の月

「……奥様はノイローゼだったのです、実妹の美耶子に殺されると思い込みになって」

「美耶子……?」

「奥様の二つ下の妹です。十三歳で亡くなられましたが……」

「高嶋さんにも妹がいたんですか……それって、雅は知っていたのかな……?」

加賀美は腕組をすると、人差し指で形の良い顎をとんとんと叩く。

「日記には書かれていませんが、奥様の身辺調査をされたようなので、知っておられるでしょうね」

東海林は手の中の日記を握り締める。

「……雅が何らかの手段で高嶋さんの中の美耶子の亡霊を使って、義姉を追い込んだ……とか?」

加賀美は自分で言いながらも、首を傾げている。

「加賀美さんは、幽霊を信じているのですか?」

東海林は意外な心境で加賀美を見つめる。

「いいえ全く……自分の目で見たことがないものは信じない」

(自分の目で見たこと……か)

マゼッパを弾いていた雅に感じた違和感の正体――あれは美耶子の顔だった。

瞼の裏に焼き付いて離れない、敦子と美耶子の最後の姿。

まるで誰かが悪意を持ってやったと邪推してしまうほど、一致した骸(むくろ)。

雅とそっくりな美耶子の容姿。

美耶子の享年と同じ十三歳だった雅。

(いや、目の錯覚だ……死に方だって、偶然同じ方向を向いて倒れただけ、ただ……ただ、それだけだ――)

「でも、雅は美耶子に対して同情等の感情は抱いていたんじゃないかな? 日記の所々に『私はあの女に殺されたのに!』の様な記述があるでしょう?」

東海林の握り締めていた日記帳を、加賀美は指を刺して指摘した。

「……確かに、他にも少しおかしい記述がありますね……悪夢を頻繁に見ているようですし、奥様の呼び方も『敦子』からある日を境に『あの女』に変わっています……」

東海林もじっと日記を見つめたが、勿論日記は何も教えてはくれなかった。

「……この日記……どうされるおつもりですか。警察に渡せば少なくとも、雅様は蜷川様と奥様への恐喝で罪に問われるでしょうね」

雅が恐喝罪で少年院に入る……東海林には、全く想像することが出来なかった。

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