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第13章 下弦の月

「……本当は雅に直接返そうと思っていたんですが、記憶喪失の雅に渡したら辛い記憶を取り戻して、また自殺されそうで……怖くて返せませんでした。東海林さんに今日見せたのは、貴方が一番適任だと思ったんです。その判断に間違いはなかったことは、先程確認できたし――」

加賀美は自分に言い聞かせるように、頷いた。

「先程――?」

「貴方は雅だけじゃなくて、あの兄妹を愛している。俺は貴方ならこの日記をどうするか、一番適切な判断が出来るんじゃないかと思ったんです」

「……………」

(自分がこの日記をどうするか、判断する? 警察に渡すか、雅様に返すか、月哉様にお渡しするか……抹消するか――)

東海林はじっとピンク色の日記を見つめた。

「任せるよ――。俺は貴方の選択を支持する。勿論、コピー等は取っていないから安心して」

顔を上げると加賀美が力強く笑っていた。

そこにはいつも通りの自信に満ち溢れた加賀美がいた。

「加賀美さん……私は……貴方に嫉妬していました――」

東海林は苦笑いして告白する。

「俺は東海林さんが羨ましかったですよ? 俺の知っている雅は誰にも甘えたりしなかったけど、貴方には唯一心を開いて寄り掛かっているように見えた。まあ、一番大好きな月哉さんに一番素を見せない雅って、どんだけ天の邪鬼なんだと思うけどね」

二人はお互い顔を見合わせて苦笑した。

「あ~あ、雅、結局一度も俺に笑い掛けてくれなかったな。一応俺、プレイボーイって言われているのに……名が廃るな――。じゃあ、そろそろ行きますね」

加賀美はソファーから立ち上がった。

東海林も立ち上がり、深く礼をした。

背を向けて会議室を出ていこうとする加賀美の背中に、咄嗟にずっと聞いてみたかった事を投げ掛ける。

「貴方は雅様を……愛しているのですか――?」

加賀美はぴたりと歩を止め、数十秒程考え込んでいたが、背を向けたまま口を開いた。

「正直、分からない。雅のように兄をあそこまで愛するのを見ていると……俺の気持ちはなんなのか………でも、ただ気になるんだ。あの子が……幸せでいるかどうか――」

そう言うと、加賀美は今度こそ出ていった。

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