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第13章 下弦の月

加賀美本社を辞去すると東海林は地下鉄には乗らず、すっかり日が暮れた街頭を歩き出した。

敦子の葬式後、家に帰ろうとしない月哉の代わりに、毎日会社帰りに雅と月都の様子を見に本邸へ足を運んでいたが、今日はそんな気になれなかった。

正直なところ、虐待、脅迫、敦子の不審死……雅を取り巻く非日常なことが連続で明るみになり、目前に突き付けられ、さすがに東海林の心も疲弊していた。

重い足取りでマンションに着き、真っ暗な部屋に明かりを付けコーヒーメーカーをセットする。

こぽこぽとドリップされる音が静かな部屋に響く。

ふと、敦子が重役会議に遅刻して罵倒された時に雅の見せた泣き顔が頭をよぎり、頭を振って追い払う。

(あれも演技だったということだ……)

一人掛けのソファーにスーツのまま腰を下ろし、片手でネクタイを緩め、銀縁の眼鏡を外して疲労の溜まった目頭を揉む。

月哉から雅の幼少期の虐待の事実を聞いた後から、東海林の中に少しずつ膨らみ続ける疑念があった。

幼少期に虐待を受けた子供は、多重人格に成りやすいと聞いたことがある。

自分を愛してくれる筈の肉親からの仕打ちという、受け入れがたい事実から目を背けるために創られる、自分ではない『もう一人の人格』。

その交代人格が虐待されているのだと思うことで辛い現実から目を逸らし、生きていけるのだという。

もしかしたら雅は敦子に兄を取られるという精神的に耐えられない状況に追い込まれ、自殺未遂をきっかけに『美耶子』という別人格を形成してしまったのかもしれない。

そして美耶子が『表』に出ても不審がられないよう記憶障害を装い、上手く立ち回って、自らの願望を果たした。

(雅様の願望――月哉様の愛を独り占めし、兄と一緒にその息子の月都を愛し育むこと――)

綿のように疲れた神経が、意識を前頭葉から徐々に、深い眠りの海へと引き摺り込んでいく。


私は走っていた。

苔の生(む)す木々の間を、走っていた。

豊かに枝を張る大木から落ちる、緑の木漏れ日が

前を走る白いセーラー服を着た雅の後ろ姿を、薄い緑色に染め上げていた。

クスクスクス……

何が可笑しいのか、雅は笑いながら私を少し振り返る。

その拍子に濡れた苔に足を滑らせ、華奢な身体が傾く。

私はその細い腰を絡めとり、胸の中に抱き寄せた。

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