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第2章 晦日(つごもり)

図星を指されて、雅はぐっと詰まる。

生理が始まって以降、怖くて食事が喉を通らなくなってしまっていたのだ。

(食べたら成長して……醜い大人になってしまう――)

武田は内線で看護師に点滴を用意させると、雅の痩せすぎた細い腕に注意深く刺す。

「これでよし。終わる頃に看護師が見に来るから、大人しくしているのだよ。あっ、今度から制服で来てね! 鴨園のセーラー服って、薄いグレーと白色で、清楚でいいんだよね〜」

整った顔ににやけた笑みを浮かべながら、武田は診察室から去っていった。                                    






「雅、何してんの?」

昼下がり。雅が中等部の図書館で世界史のレポートの調べものをしていると、頭上から声が降ってきた。

見なくても誰だか分かる。

この学園で雅にこんな口を利くのは唯一人、高等部ニ年の加賀美先輩だ。

(高等部にも図書館が整っているのに、なんでわざわざ中等部の図書館に来るかな――)

思いっきり面倒臭そうな表情で顔を上げてやりたかったが、我慢してポーカーフェイスで通す。

これでも天下の加賀美グループの社長子息だ。

理事一族として不躾な事は、なるべくやりたくない。

雅は目の前に立っている、加賀美の無駄にイケメンな顔を見据える。

よく焼けた肌に意志の強さが表れた眉、長い睫で縁取られた大きな瞳、口角の上がった大きな口が彼をいつも自信満々に見せる。

見つめられた加賀美は興味深そうに雅を見返し、笑っている。

親族以外に雅の事を呼び捨てで呼ぶ、唯一の人――。

(黙っていたら、付け上がらせてしまう)

「……先輩、学園内では名前で呼ばないで下さい」

雅は再び文献に視線を戻して、いつものように注意を繰り返す。

「学園の外なら、呼んでいいわけ?」

揚げ足取りな返事を寄越しながら、雅の隣に腰を下ろしてしまった加賀美を、雅は軽く睨む。

「そういう訳では……」

大きな声で反論しそうになり、慌てて口をつぐむ。

ざっと周囲を見回すと、ちらほらいた生徒逹は珍しい組み合わせの二人に皆注目していたらしく、雅と目が合うとパッと視線を逸らされた。

「雅、今日、白鳥製薬のパーティー行くだろ?」

周りなんか関係ないのか目に入ってないのか、加賀美は気にせず続ける。

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