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第13章 下弦の月

長い黒髪が私の手の甲を擽る。

その気持ちよさに私は雅の髪に顔を埋め、

仄かに馨る百合の香りを、胸いっぱいに吸い込む。

雅がいやいやをする様に体を捩ると、

セーラー服から覗く白い腹部が露わになる。

私は無我夢中になり、その奥の吸い付くような白い肌を貪(むさぼ)る様にまさぐり、

白いうなじに唇を這わせる。

薄い脂肪層の下に規則正しく並ぶ肋骨を指先に感じ取り、執拗にその上を辿る。

雅はくすぐったいのか、クスクス笑いを止めない。

私は雅の美しい顔を見たくなり、 

苔の生した大木の幹に縫い止める様に、その華奢な両腕を貼り付けにする。

黒髪の間から覗いた顔には笑みが湛えられ、

黒く大きな瞳は何も捉えず、

人形に埋め込まれたただの硝子玉のように、

木漏れ日を受け、キラキラと輝いていた。



東海林はびくりと体を震わせ、覚醒する。

煮詰めすぎたコーヒーの香ばしい香りが鼻腔を擽り、暫く眠ってしまったのだと気がついた。

(夢……)

東海林は息を吐き出し、脱力した。

どくどくと心臓が早鐘を打ち、全身に薄っすらと汗をかいている。

(なんで……あんな夢を……)

しっとりとした水蜜桃のような肌の感触を思い出し、掌を握り締める。

あの白い肌を暴いて蹂躙し、めちゃくちゃにしてしまいたいと思った。

その自分の考えに愕然とする。

「……………」

(月哉様は……どうなのだろう……)

意識して思い返してみれば、月哉には兄として度を越して雅に干渉し、気持ちを弄び、自分の虜にさせようとする様な言動が節々にあった。

しかしそれは、唯一の肉親である妹の心を繋ぎ止めて置きたい気持ちの表れだったのか、無意識に自分の女への独占欲からなされた行動だったのか、今でも東海林には判断しかねた。

視界に、雅の日記を収めた通勤鞄が入る。

(私はどうすることが正しいのか……解らない……)

・警察に渡す。

それが全(まっと)うな方法だというのは、もちろん解っている。

雅は明らかに罪を犯している。

月哉や敦子の両親、事実を知らされた蜷川氏に司法に訴えられその罪を償うことは、これから雅が生きていく上で過酷だが、やらなければならない必要なことだ。

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