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第13章 下弦の月

・雅に日記を返す。

その選択肢は一番恐ろしかった。

東海林には雅が本当に記憶喪失になっているのか、自分の想像通り多重人格のような病気になっているのか、若しくはそれ以外なのか、判断がつかなかった。

もし前者だとしたら雅は日記を読むことで記憶を取り戻し、若しくは取り戻さなかったとしても、罪の意識に苛まれまた自殺をしてしまうという、最悪の結末しか想像できなかった。

そして後者、多重人格――解離性同一性障害だとした場合、月哉に日記の件を報告しない訳にはいかない。

雅は精神病院に入り、治療を受けることになるのだろうか……。

(雅様は虐待に対するカウンセリングを受けてこられなかった……総合的に考えても、病院で専門的な治療を受けることは、最優先でやらなければならない事なのかもしれない……)  

しかし――。

東海林は行き着いた考えに、戸惑う。

(私は……恐れているのだ……。月哉様が一生……雅様を自分以外の人間の手の届かないところへ、幽閉してしまうのではないかと――)  


東海林は翌日もその翌日も、会社とマンションの往復を繰り返し、悩んでいた。

どうすることが、雅にとって、月哉にとって一番良いことなのか。

考えても考えても、答えは見つからず、いつも最終的にたどり着く思いは、やはりこの一つだけだった。

私は……雅様のお傍にいたい――。

(単なる、私のエゴ……結局は……そうなのだ……)

雅と逢えなくなるなど、東海林には耐えられなかったのだ。

東海林には今、無性に雅に聞いてみたいことがあった。

マンションを出て車に乗り込み、本邸を目指す。

助手席に置いた日記の入った通勤鞄をそっと擦った。

本邸に付くと、借りている使用人用玄関の鍵で開けて中に入る。

出会う使用人達に「こんなに毎日の様に来るなら、もう住んでしまえばいいのに」とからかわれながら、雅の私室に辿り着いた。

ノックしても返事がないため中に入ると、雅は寝室に置かれたベビーベッドに凭れ掛かって眠ってしまっていた。

ベッドの中の月都はよく眠っていた。

直ぐ起きてしまうかも知れないが少しは雅を安眠させようと、東海林は雅をそっと抱き上げた。

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